試合は前半終えて1ー1。

迎えた後半戦でも両チーム点が入らず攻防戦に。

キーパーの役目はゴールを守るだけではない。唯一、チームの中でピッチ全体を見渡せる立ち位置にいるキーパーは常にその動きを見て味方に指示を出す。

「ユウマ！晴樹だ！」

2人の敵に囲まれボールを取られまいと必死になっているボランチの選手にフォアードの先輩がフリーになっていることを伝える。その俺の声が届き、無事にボールが渡る。

そして晴樹先輩が1人交わし、相手ディフェンスの間を上手くついてパスを出す。

誰もいないゴール前右サイド。そこに走り込んできたのはサイドバックの康介。

よし、よく見てる！いけ！心の中で叫ぶ。

得意のトラップから、右足を振り抜きシュート。ボールは相手キーパーの右手をかすめてゴールネットへと吸い込まれていった。

「っしゃー！」

康介の声がゴールにいる俺にも届く。

試合前、嬉しそうにグータッチをした先輩と、今度は喜びのハイタッチ。

ところが勝ち越した余裕が出てしまったのか、ゴール後のキックオフからあっという間にボールは相手チームへと渡り、ハイタッチをしたばかりの先輩のスライディングも虚しくかわされてしまう。

完全にこちらの油断が招いてしまった展開だ。

いつのまにか相手フォアード選手と一対一。


ーー守れるのは俺しかいない。


頭で考える時間なんてない、相手の動きとボールを見て判断するしかない。
手に、足にグッと力を入れる。


ーー右だ！


思った瞬間にはもうボールは視界の右端をかすめていく。目一杯腕を伸ばすと、グローブの先にボールが当たる感触。

ギリギリのラインでボールの軌道は変わり、ポストに当たりことなきを得た。