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「一紫から誘ってくれるなんて、珍しいね」

「まあ、たまには、な」

まだ暑さの残る中庭のベンチ。

翠の言う通り、俺から昼休みに誘うことなんて滅多にない。

部活の新人戦や秋季大会に向けての練習もハードだし、虹やナナ、透と琥太郎のことも気になり、翠と過ごす時間もなかなか持てなくて。

どうやらモテる彼女を持ってしまったらしいから、あまりほっておくと自分が不安になってしまう。

俺もたまにはこうして、いつもと違う場所で翠と弁当を食べるのも気分転換になるし悪くはない。

「そだ!あたし、チアリーダーになったよ。しかもセンター!」

「え?マジかよ?スゲーじゃん」

来月行われる体育祭の話だ。各クラスから何名かのチアリーダーが選ばれるという話を聞いていた。

目立つことの好きな翠は迷いなく立候補していた。

「うん。でも練習キツそう……踊れるのかな、私」

珍しく弱気な部分を見せる。

「翠なら大丈夫だよ。意外に運動神経いいし」

翠ならソツなくこなすだろう。

「意外にって何よ〜?」

箸を持つ手で俺の肩を小突く。

「あはは、華奢だから、そんなに動けるように見えないだけだよ」

「もー!」

頬を膨らませながらも悪い気はしていないようだ。

「一紫は?レギュラーなれそうなの?」

3年生が引退してからはまだ、ちゃんとしたレギュラーが決まってなかった。練習試合などの様子を見ている監督が、そろそろ決める頃だろう。