「あ……うん。でも……」

「でも、何よ⁈」

それは小椋くんに引き止められたから……そう言いたかった。でもそれを断らなかったあの時の私の気持ちは、確かに小岳さんを裏切るものだったのかもしれない。

「……」

「もう、いいよ。何言っても言い訳にしか聞こえないし」

はぁ、とわざとらしいため息が私の胸にグサリと刺さる。

「とにかく、もう一紫には近づかないで!あんたみたいな地味な子を一紫が相手にするわけないし!」

地味……まあ、そうだけど。こんな可愛い彼女がいるんだから、私なんて目にも入らないことくらい分かってる。

「……うん……」

「ほら、行こ」

「うん」

大きな音を立てて2人が足早に教室から出て行く。

私はその場から動くことができず、そっと深呼吸をする。

少し冷たく埃っぽい空気が体に入ってくる、まるで久しぶりに呼吸をしたような感覚。

閉められた窓から風が入ることはなく、無機質な床に描かれた光の模様は微動だにしない。

なんなの?結局、言いたいことを言われただけ。全部、私が悪いのかな、そんな風に思ってしまう。

小椋くんは、こんな気の強い子が好みなんだろうか?誠実な小椋くんと、私を上から睨みつける小岳さん。付き合っている2人の間のことなんて、私には分かり得ないけれど。

何となく感じる2人への違和感。

『価値観が違うのは当たり前』

イチが呟いていた気持ち。

何に重きを置くのかを決めるのは自分であるべきで。それでも周りに振り回されるのが人間関係の難しいところ。

もう何も感じられない、痛みさえも。


朱里ーー。


そばにいてよ。


私を置いて、いったいどこに行ってしまったの?

親友を失った私の心に、ほんの少しの明かりを灯してくれた小椋くん。もう、彼を思うことすら叶わないのだろうか?

私は、いったいどうしたらいい?


ねえ、朱里ーー。