「いや、また連絡するよ」

「うん。じゃ帰ろ……」

「おう!またな。俺コイツともう少し話してから帰る」

私の声を遮る小椋くんの低い声。

コイツというのはどうやら私のことらしい。ちょっと待ってよ。いやいやいや、私といったい何の話を?急に心臓が大きな音を立てる。

「まだ時間平気か?」

「……うん」

ああ、うまく断れない自分が嫌になる。一緒にいたい気持ちがどこかにあるのが悔しい。

もっと小椋くんのことを知りたい気持ちだってある。でも、それは今じゃない。今はまだ無理だよ。

「……絵、描けないのか?」

嘉山くんの背中を見送った小椋くんがさっそく口を開く。

「なっ……?」

なんでそんなことまで小椋くんが知ってるの?

「その木下ってヤツからチラッと聞いた」

そうか、いつもは教室で絵ばかり描いてたから。急に描かなくなったら気づくよね。

「……うん……あの……描けないっていうか。描く気分になれないだけで……」

「……」

体がカチコチに固まってしまっている。

「アイデアも全然浮かばなくって……そのうちまた描きたくなったら描くよ」

ウソじゃない。ウソなんかじゃない。きっとまた描ける日が来る、そう信じてる。

「……そうか……」

珍しく俯き加減の小椋くんの声は、また私の大きな空っぽの穴にそっと寄り添ってくる。

ここで彼に甘えられたら、楽になるのだろうか。そんな勇気私にはないけど。