「あら、2人揃って来てくれたのね」

朱里のお母さんは、朱里が亡くなってから少し痩せてしまったけど、相変わらず綺麗だ。

朱里の部屋はあの時のまま。

朱里がいつも座っていた真っ赤なクッション、ほんのりと鼻をくすぐる絵の具の香り。

この部屋に入ると、朱里を感じられる。

持って来た花束を供え、2人で手を合わせる。

朱里……。

会いたい、会いたいよ。

ごめんね、いつまでたっても心配かけてばかりだね。

でも今日、琥太郎と会って少し分かったよ。

逃げてばかりじゃダメだ。

琥太郎みたいに真正面から受け止める勇気はないけど。

私は、私なりに。

少しずつでも前に進めたら、いいかな。

会いたいよ、朱里……。

すん、と隣で鼻をすすった琥太郎が「大丈夫」そう言ったのが聞こえた。

笑っている朱里が見える。

「また、いつでも来てね。朱里も喜ぶわ」

笑顔で見送ってくれたお母さんにもう一度お礼を言う。

「じゃ、またな。気をつけて」

「うん。またね」

マンションのロビーまで見送ってくれた琥太郎。外は夕焼けなのだろう、オレンジ色に輝いている。

「琥太郎!」

エレベーターに乗り込もうとしていた琥太郎を引き止める。

「ありがとうね」

まだ、笑顔は上手く作れそうにないけど。

「おう!」

そう答えた彼の声には確かな強さを感じた。