「無理して描こうとする必要はないよ」

「うん、分かってる」

不意に頭に乗せられた琥太郎の温かい手。強さと弱さと、それから優しさ。

ジワリと心のトゲに染み込んで、柔らかく広がっていく。

痛いよ、痛いよ朱里。

ギュっと強く握った冷たい手のひらをゆっくりと開くと温かさが戻る。

「少しずつ、少しずつでいいからさ。虹は、虹のペースで」

「うん……」

「俺も学校行けるように。虹も絵が描けるように」

「うん」

閉じていた目を開け顔を上げるとそこには、朱里が描いた絵。

これは確か、寒い冬。

初雪に浮かれて2人で公園へ行き、震えながら筆を走らせた。冬なのに、なんとなく暖かい色彩感。

まだ見ぬ春を感じさせる前向きな絵。

今の私にはまだ、先のことなんて考えられない。でも今よりも後ろに下がることは決してないんだ。

一歩でも、前へ。

きっと朱里だって、私たちがいつまでも同じ場所で足踏みしていることなんて望んでなんかいない。

「……前を、向かなきゃね」

「そうだな。朱里のためにも」

「うん」

琥太郎に会いに来てよかった。

「琥太郎、ずっと家にいたら体鈍るんじゃない?」

「まあな、でも最近夜に体動かしてるんだ。これじゃ部活復帰しても役に立たないからな」

「そっか。それはいいね」

傷を舐め合うのでもなく、励まし合うのでもなく。悲しみを、分け合える。そんな気がした。

「さ、朱里に会いに行こう」

「うん」