「ああ、うん。大丈夫だよ。みんなコソコソうわさ話みたいにしてたけど、私には何も」

だって、いつも1人だし。そんなの、琥太郎も知ってるでしょ。

「そっか……」

「琥太郎は?大丈夫?学校はまだ無理そう?」

いつまでもズルズルとこんな状態でいることが、いいことだと思ってないことくらいわかる。学校にだって、やっぱり行った方がいい。

「……どうかな……行ってみないと分からない」

素直な気持ちだろう。

立てた膝に顔を埋めてしまった琥太郎。

「そうだ。さっき下で嘉山くんに会ったよ。琥太郎に会いに来たみたいだけど、今日が月命日だって言ったら、遠慮するって言って帰っちゃった」

泣いているのかもしれない。そんな彼を見たらいつもはあまり動いてくれない口から言葉が溢れ出してくる。

「嘉山が?」

勢いよく上げられた顔は、泣いてはいなかった。

「うん、心配してたよ」

「そっか……後で連絡してみる」

そう言った琥太郎は、ゆっくりと立ち上がってテレビの電源を切った。急に静まり返る部屋。

「あんま、無理すんなよ」

私と同じようにベッドに座った琥太郎はしっかりと朱里の描いた絵を見据えて、穏やかに言った。

「……ん?」

最初、琥太郎が何を言っているのかわからなかった。

その目線は思っていたより強く、さっきの悲しい笑顔はもうそこにはなかった。

そこに琥太郎の芯の強さを見たようで、私の弱い心が静かに震えた。