琥太郎の家に入るのは初めてだった。もう何度もこの建物には入っているのに、なんだか不思議。

「虹ちゃん、久しぶりね」

「突然すみません。琥太郎は?」

琥太郎にそっくりなお母さんに会うのも随分と久しぶりだった。

「ずっと部屋にいるわ。私も無理に外に出るようには言ってないの……あの子のペースでね、元気になれればいいと思って」

「そうですか……」

同じ悲しみでも、向き合い方はそれぞれだ。琥太郎はどうやってこの暗闇と戦っているんだろう。

「琥太郎?」

私が部屋に入ると琥太郎は意外にもテレビで野球観戦をしていた。

「おー、虹。久しぶりだな」

その薄い笑顔は今まで見た琥太郎の笑顔の中で、1番悲しかった。

「うん……」

もう、何を言っていいのか分からなかったので、促されるままベッドの端に座る。

「今日、朱里の月命日だから一緒に会いに行こうと思って」

「……そっか、もう1ヶ月か」

「うん……」

沈黙の中、野球中継の解説の声だけが部屋に流れていた。場違いに騒ぐ応援の声が余計に胸を騒つかせる。

琥太郎の部屋には、朱里が描いた絵が何枚か置かれていた。ポップな色使いからは朱里が溢れていて私は直視することができない。

「……大丈夫か?」

テレビ画面から目を離さずに呟くように琥太郎は言った。

「え?」

大丈夫って……それは私のセリフじゃないの?

「学校、行ってんだろ?なんか言われたりしてないか?」

今度はちゃんと、顔を見て。その表情は思いのほかたくましくて私の心を安定させる。