自転車で10分。朱里のマンションの前まで来ると、見慣れたそのロビーに同じ学校の男子がいた。

顔を見合わせた2人は同時にあっ、と声を上げる。

「えっと……虹、ちゃん。だよね?」

「あ、うん、えっと……野球部の」

「うん、嘉山。嘉山 透」

そうだ、嘉山くんだ。琥太郎と一緒にいるのを何度か見かけたことがある。

この朱里と同じマンションに住む琥太郎に会いに来たのだろう。

「もしかして、朱里?」

私が持っている花束に気づいたのだろう、指差して彼が言う。

「うん。今日月命日だから……」

「……そうか……」

「嘉山くんは、琥太郎に会いに来たの?」

学校に来ていない琥太郎を心配しているのだろう。その表情からも読み取れる。

「うん。でも今日はやめとくわ」

「え?なんで?」

「だって、月命日だろ?そんな大切な日に、迷惑だよ」

細い目を、私からそらす。

「一緒に……琥太郎と3人で行かない?」

私の言葉に彼は明らかに戸惑いの様子を見せた。

困らせちゃったかな……。

「いや……正直言うと、琥太郎になんて言ってやったらいいか分かんないんだよな……」

「……そっか……だよね」

それは、私も同じ。

「とりあえず、今日は虹ちゃんに任せていいかな。また様子聞かせてよ。俺はまた来るからさ」

心配してくれている仲間がいる。琥太郎には野球がある。きっと、彼が立ち直る日はそう遠くはない、そう感じることができる。

「うん、分かった」

「じゃ」

そう言って足早に去っていく彼を見送り、深呼吸をひとつ。