ただ一つ。


絵が、描けないーー。


それだけは、はっきりと私を苦しめた。

私の唯一の感情の置き場であるキャンバスに筆を滑らそうとしても、震える指が動いてくれなかった。

このやり場のない感情をどんな絵にするかなんて分からなかったけど、とにかくすがる思いで何度も筆を持った。

それでも、手も頭も動いてはくれなかった。

もう、私には絵が描けないんだろうか。

そんな現実と向き合うことが怖くなり、私は筆を持つのをやめた。

朱里が亡くなる前に仕上げた空の絵が棚に飾られている。

透き通る青空、薄雲がかかっている空。夕焼け空、夜の狭間の紫。そして深夜の黒。

その中をふわふわと漂う行き先のない船は、私。今の私は間違いなく真っ黒な暗闇の中を進む船だろう。

結局この絵も、朱里に見せることはできなかった。朱里が気合いを入れて描いていた人物画も、見れずじまいだった。

あの日、絵が仕上がったお祝いに大好きなケーキを買いに行った朱里。そのままかえらぬ人となってしまった。

私が描いた最後の絵になるかもしれないその小ぶりのキャンバスを眺めながら、私は重たい頭と体をベッドから無理やり剥がす。

学校には絶対に行く。何故かそれだけは決めていた。