「うん。虹はいつもどこでも絵描いてたのに、今は全く描いてないし、部活にも行ってないみたい」

「マジか……何が大丈夫だよ」

やっぱり、つよがりじゃないか。

「私なんかに頼ってくれないし、またあの子のこと気にかけてやってほしい」

「もちろんだよ。でも、虹には米村さん以外にもちゃんといい友達がいて安心したよ」

彼女の目をしっかり見て言うと、私なんて、と照れたように視線を逸らす。

ちゃんと学校に来れてること、心配してくれている友達がいること。安心材料も少し。

好きだった絵を描くことができない。きっとこれが彼女を立ち直らせる力になるはずだ。

「ありがとうな」

そう彼女に告げて部室へと急いだ。

俺なんかが出しゃばることじゃないのかもしれない。

ただ、優しくて控えめで、絵が上手い虹に早く戻ってほしい。

彼女の描いた絵が、見たい。

好きなことができる、そんな普通の幸せを、彼女に取り戻してやりたい。

部室へと入ると、いつもの汗臭い熱気がこもっていた。

ほとんどの連中はもう着替えを済ませてスパイクの紐を結んでいるところだった。

「一紫、おせーぞ」

「また可愛い彼女とラブラブしてたのかー?」

乾いた笑い声が俺を包む。

いつもの笑顔が、そこにある。

「そんなんじゃねーよ」

俺の笑顔もある。

そんな、些細なことがこんなにも幸せに感じる。そして、こんな時間が永遠に続く保証はどこにもないという不安も、同時に感じていた。