その時。

「ちょっといい?」

虹のクラスから出てきた背の高い女子に声をかけられた。

「えっ?」

「あんた、虹の知り合い?」

気の強い口調のわりには優しい目線に、俺は足を止めて彼女と向き合った。

「いや、まあ、ちょっと」

彼女はぐいっと俺の腕を掴み、あまり人がいない渡り廊下の手前に連れて来る。

「聞いたでしょ?米村さんのこと」

「ああ、うん。仲良かったんだろ、虹と」

「仲良かったも何も、あの子のちゃんとした友達なんて米村さんしかいないよ」

「……そうか」

大人しそうな子だもんな、目の前の彼女や翠とはまた違うタイプなんだろう。

「うん、でもさ、あの子強がってて。普段通りにしてるけど、話しかけないでオーラ全開で。私どうしてあげたらいいのか分からなくて……」

初めて俺から視線を離した彼女。

そんな彼女を見て、俺は少し安心した。虹を心配してくれている人がちゃんといたからだ。

「そうだな、俺も正直分からない。でも、虹が普通にしてるなら、普通に接してやったらいいんじゃないかな」

「……うん、だよね。せめて、絵を描けたらいいんだけど」

「……絵、描けてないのか?」

まさか……。あんなに上手い絵を描いていたのに?

空の絵は、まだ未完成なのだろうか。