「これから部活?」

「うん」

思ったより普通の会話、夏休み前と何も変わらない様子に見える。

「あの、さ……」

「ん?」

「……大丈夫、なのか?」

こんな話題、本当は避けたいのかもしれない。普段通り、何もなかったように接した方がよかったのかもしれない。

「……ああ……朱里のこと?」

せっかく上げていた目線をまた下げてしまう彼女を見て、俺は少しばかり後悔していた。

「うん……仲良かったって聞いて。前に絵を見せてくれた子だろ?」

「うん、そう」

「幼馴染の琥太郎ってやつ、学校来れてないって聞いた」

「私は、大丈夫。琥太郎の力になれなくて、申し訳ないけど」

今にも消えそうな虹の声。自然と周りの騒がしさはシャットアウトされる。

やっと上げた視線は、柔らかく光っていて。一瞬だけ強く結ばれた唇は隠しきれない強がり。

「無理、すんなよ。また今度ゆっくり話そう」

「……ありがとう」

また微笑んでみせた彼女は、弱くて強くて。それ以上、何も出来なかった。階段へと歩いて行く背中をただ見つめていた。

何やってんだ、俺。

たった数回話したことがあるだけの俺に、彼女が心を開いてくれるとでも思ったのか?

ふぅ……と大きな溜め息を漏らしグラウンドへと続く階段へと向かおうとした。