老舗のうどん屋『弁慶』の3代目と、フィリピンバー『マリーン』のママが居なくなって半月が経った。
この話題で商店街は持ちきりだったけど、どうやら今日から営業するらしい。
こりゃ、また一騒ぎあるな。
僕は1人でたい焼きを焼いている。
それなのに商店街の裏側まで把握しているのは、この3人のお陰だろう。
いや、4人か__。
「お兄ちゃん、たい焼き5個ちょうだい!」
お客さんがやってきた。
こちらも常連さん。
まだ営業時間前だけど、こうして中に人が居ると入りやすいらしい。逆に誰も居ないと、入るのに躊躇する。行列が絶えないお店は、そういった心理が働くんだ。
だから僕は、先を見越して焼き始めていた。
「たい焼き、2枚ありますか?」
こちらは、初めてのお客さん。
食べながら、商店街突き当たりの【観音様】に行くのかな?
そんなことを考えていたら、不意に源さんが言った。
「たい焼きってのはよ、どう数えるんだ?」
「えっ?」
「1枚か?1個か?正式なやつがあんだろうが?」
半ば喧嘩腰の物言いだが、別に怒っているわけじゃない。
亀さんも吾郎さんも腕組みをして首を傾げている。
たい焼きの数えかた?