一丁焼きと、量産型。
確かに1枚ずつ両面をよく焼いたほうが、ぱりぱりに仕上がる。でも一気に焼き上げる量産型も、焼き方次第で、一丁焼きに近づけることは可能だ。
昔ながらの手焼きは、今は稀有となっていて貴重でもある。
ただ、数が焼けない。
たい焼きの購入枚数は、平均で5枚。1枚を買ってすぐ食べるお客さんも多いけど、10枚20枚をお土産や差し入れに買っていくお客さんも同じくらいいる。
中にはイベントや祝い事に、50枚や100枚といった大量注文も珍しくない。
そういった時、一丁焼きでは厳しいものがある。
思わず目を惹く珍しい鉄板を、オブジェとして飾ってあった。
「はい、お待たせ。260円ね」
「うわぁ、焼きたて」
美代ちゃんが、ほっこり笑った。
「ありがとう!」
「こちらこそ。行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
ようやくいつもの元気を取り戻した美代ちゃんは、たい焼きを胸に抱いて店を出て行った。まるで宝物だとでもいうように。
その後ろ姿を見送った僕は、はつらつとした若さに目を細める。
なんだか、随分と年を取った気分だ。
こんなことを言えば、商店街中から袋叩きに遭うな。
けれど呑気に笑っていた僕は次の日、ぎょっと驚くことになる。
翌朝、制服姿の女子学生が、ゾンビのようにお店に押し寄せてきたからだった__。