今日は源さんたち、来ないな。
2月の節分祭りのことを話し合う会合が『ブルボン』で行われている。大丸商店街の集まりは、ほとんど朝早くに始まるんだ。
ちょっと息抜きできるかも、なんて口が裂けても言えないことを考えて休んでいると__。
「おおっ」
誰かが店の入り口に立っていて、びっくりしてしまった。
その誰かは、入ってくるわけでもなく、首を伸ばして店の中を覗き込んでいる。
「おはよう」
僕は中から引き戸を引いて、声を掛けた。
「今から学校?」と。
すると、やや目を伏せて「あっ、うん」と答えたのは『定森屋』の看板娘である、定森美代子こと、美代(みよ)ちゃんだった。
いつもはエプロン姿だけれど、セーラー服だと幼く見える。
中華そばがウリの定森屋は、老舗の定食屋さんだった。
とても高校生とは思えないきびやかな動きで、フロアをこなしているのを何度か見ているので__?
「どうしたの?」
なんだか、もじもじしている美代ちゃんに、僕のほうが戸惑ってしまう。
「もしかして、たい焼き?」
「うん」
大きく頷くと、肩までの髪が揺れた。
お店では三角巾をしているから、余計に新鮮だ。
「2枚、欲しいんだけど__?」
「いいよ。ちょっと待てる?」
そう尋ねると、美代ちゃんは心からホッとしたように微笑んだ。