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初めてのお客さんだった。

客商売は空気になることと、お客さんの顔を覚えること。


道には迷う僕でも、お客さんの顔は忘れない。

まだ20歳前後だろうか?


たい焼きの購買層は圧倒的に年配の方が多い。商店街という土地柄もあって、若い学生が立ち寄ることはあまりない。

そもそも、カスタードなんてハイカラな商品はないし。


だから余計、印象に残りやすい。

まだ大学生かな?


顔は幼いけれど、どこか落ち着いた印象がある。



僕が焼き始めると、青年に声をかけたのは楽さんだった。

こういう時、お客さん同士が仲良くなったりする。


「今、1尾って頼んだか?」

「えっ?あっ、はい」

「やっぱ1尾だよな?」

「そうですね。たい焼きっていっても魚なんで」

「だよな!」


『気に入った!』と、青年の肩を無遠慮に叩く。


今時の若者は、慣れを極端に嫌うが、彼は恥ずかしげに微笑んでいる。



「兄ちゃん、今いくつだ?」

「20歳になったばかりです」

「そうかそうか、わけーな。学生か?」

「それが、大学を辞めて働き出したところで」

「辞めちまったのか?俺が言うのもあれだが、学は必要だがなー。学さえありゃ、なんとかなったんじゃねーかってこと何回かあったからな。もったいねーな」

楽さんの言葉に頷いていたが、次の瞬間、僕は思わず出来上がったたい焼きを取り落としそうになった。



「子供ができたんで」

青年がそう言ったからだ。