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楽さんがやってきたのは、それからすぐだった。
「さっき、源さんたちが来てましたよ。これから楽さんのところ行くって」
すれ違いになったことを説明したが「そらちょうどいいや」と椅子に腰を下ろした。
「たい焼き、1尾な」
と。
僕は頷いて、すぐに焼き始める。
6年やってるけど『1尾』と注文するお客さんは居ない。
「これも立派な魚だろうが」と凄まれたのを思い出す。
魚屋なのに真っ黒に日焼けしていて、生やした髭は白く、がたいもいい。要するに、楽さんは厳つい。ひと睨みされれば、固まるしかない。
そんな楽さんなのに、最近は覇気がないともっぱらの評判だ。
濃い緑茶と一緒に、焼きあがったたい焼きを出す。
このお茶も、合格を貰うまで大変だった。
1番、文句を言っていた楽さんが、まずお茶を口に含む。
今でもこの瞬間は、緊張する。
「ふぅー」と息を吐き出し、たい焼きを豪快に頭からかぶりつく。
半分ほど食べた頃だろうか?
突然だった。
突然、楽さんが言ったんだ。
「俺、自信がねーんだよ」
「えっ?」
「父親になる、自信がねーの!」