ちょうど半月前、大丸商店街はお祭り騒ぎだった。

年1回の五社観音祭りや四季折々のお祭りは、多くの人で賑わう。


でもそうじゃなくって、なんの催しも行われていないのに、みんなが浮き足立っていた。多くのお店がセール品や値引きをし、それはもう祝福モードに溢れ返っていたんだ。



僕もその日は、たい焼きを100円にしたくらい。


一体、どんな記念日かというと__。



魚屋『河磯』の大将、楽(ろく)さんのところに新しい命が誕生したんだ。

生まれるや生まれないやらで、行き場のない熱気に包まれていた商店街が、誕生とともにうねりをあげる。



どうしてそこまで周りが盛り上がったかというと、それは楽さんの年齢に関係していた。

楽さんは、もう還暦だ。


子宝に恵まれず、後継を諦めていた。


そんな時、20歳年の離れた奥さんに小さな命が宿った。

その時の喜びようときたらもう、説明しなくても分かるだろう。


それが、いつ頃からか?



次第に、楽さんがふさぎ込んでいると噂が広がった。

初めての子供、それも念願の男の子だ。


柄にもなく緊張しているだけで、生まれたらまた以前のように陽気に練り歩くに違いないと、商店街のみんなは思っていたが__。