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 青く澄みきった空の下、私は二人を待っていた。腕時計を見ると、八時五分。まだ、二人とも来ない。

 「おはよ、沙月」

 眠そうな翔が、のんびり歩いてきた。

 「あ、おはよう、翔。葉月は?」

 「まだじゃね?いつものことだし」

 私達三人の家は、連続で並んでいる。近隣同士の付き合いでもあるのだ。

 「そういえば、明日、テストだね」

 「あぁー、そうだったな。……ちっ」

 「翔?……ふふっ」

 「なんだよ?おいー」

 翔が私の髪を引っ張る。

 「いーたーいー」

 「ふんっ」

 私が翔を見上げると、ぱっと手を放した。

 「あー、葉月、きたよ」

 「ひー、ごめんごめん。遅れました」

 「おせーぞ」

 「葉月、おはよう!」

 「おはよう!」

 三人並ぶと、とても落ち着く。葉月は女子の中で一番、信用しているし、翔
も男子の中で一番、信用している。

 そして、葉月が昨日言っていたことが当たった。朝のホームルームで、転校
生が紹介された。もちろん、名前は戸崎晴斗。

 「えー、転校生を紹介する。……さ、入って」

 先生に呼ばれ、一人の男子生徒が入ってきた。

 「はい、自己紹介を簡単にしてください」

 「……」

 久しぶりに見る晴斗は、なんだか様子がおかしい。先生に促されているの
に、一つも声を発しない。
 
 「戸崎くん」

 「……あ、すいません。えっと、僕は戸崎晴斗です。よろしく」
 
 少しだけ顔を上げ、ぺこりとお辞儀をした。みんなが息をのんだ。なぜならば、晴斗の目が怖かったからだ。

 虚ろな目には、ただ一つの光さえない。私は、昔の晴斗を思い出す。

――絶対、あんな暗くない。

 私のどこかで何かが、そう告げた。

 「はい、じゃ、席は瀬戸と遠藤の間」

 「……」

 無言で晴斗は歩き出した。そして、席に座った。葉月の隣だ。葉月からの視線が送られてくる。

――これは、何かあったはずだ。

 葉月の目はそう言っていた。私はそれに応えるように頷き返した。