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「おつかれー」
「お疲れさまです」
後輩ともども、それぞれが荷物をまとめて、帰宅準備を始める。長い練習時間が終わったのだ。みんな額に汗が浮かんでいる。
「ふぅ」
「おつかれ、沙月」
「おつかれ、葉月」
二人で活動場所を出た。教室内と外の温度差に眩暈がした。
「おっ、二人ともおつかれさん」
「翔!」
「おつかれさまっす、翔どの」
「葉月、なんだその言い方は?」
「ふーんふふふーん」
私は二人のやり取りに、ふふっと笑った。
「大会まであと一カ月をきったな……」
「そうだね。練習、がんばらないと」
「あ、そうそう、二人とも」
葉月が、昇降口で靴を履き替えながら言う。
「あのね、転校生がくるらしいよ」
「えっ」
「それ、ホント?」
「うん」
私と翔は口をあんぐりと開けた。
「明日か明後日に来るらしいよ」
「へーぇ……ってか、何で知ってんのさ?」
翔が葉月に問う。
「なんでかって?それはね……」
「……?」
葉月は意味ありげな笑みを浮かべ、私と翔の目を順番に見る。
「私達が知っているやつ、だからだよ」
「知っている……?」
私は口に手を当てて、聞き返す。翔も、腕を組んで宙を見つめている。
「覚えてない?あいつだよ」
葉月は小さな声でその名を告げた。
「戸崎……晴斗……?」
「はると……が、あいつが来るのか?」
「そだよ。何でそんな怖いものを見るような目をしてるの」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
私と翔が躊躇うのには、一つの大きな理由がある。これは、小学生の頃の話
だ。