【晴斗 side】
俺は、どうしてこんなに強がるんだろう?さっきから、体がだるい。動悸は
半端ないし、頭がぼーっとする。
それでも、図書館の中に入って、率先して開いている席を探し歩く。
「お、席あったぞ!」
俺の声に三人は、反応した。
「おー、サンキュー」
「やるね、晴斗!」
葉月が俺の肩をバシッと叩いた。
「いってぇ」
「あー、ごめん」
謝る気のない、抜けたような声が返ってきた。
「晴斗、一緒に座ろ!」
綺麗な紺のワンピースを着た沙月が俺の小さな怒りを消すように、笑ってそ
う言った。
「おう。いいぜ」
俺も笑い返す。小学校の頃の親友が揃っている。翔、葉月、沙月、そして俺。幸せなもんだ。
四人席のテーブルに座った。沙月は俺の右にいて、翔が俺の目の前。葉月は沙月の前。
すぐに勉強を始め出したのは、沙月。マジで、やる気が溢れ出ている。ノートに問題の答えを、次々に書いていく。
「うーん、と」
沙月が首をかしげながら、問題とにらめっこをしている。
俺の右隣のやつは、相変わらず優しい。転校してきた一日目のときも、暗い俺に話しかけてくれた。
わざと――暗くした。かつての友を目の前にするのは怖かった。小学生の頃のかくれんぼを思い出すと、心がチクリと痛む。
それから、この間のことだ。「一緒に授業を受けに行こう」と誘ってくれた。
だけど、おっちょこちょいで、授業を受ける教室を間違えたり、学校案内を沙月が担当してくれた時には、全く別のところを説明してるし。
そして、俺の訳のわからん願い事も守ってくれている。
――あーあ。なんで俺は、こんなやつを好きになってしまったんだ?
優しいんだけど、不器用で。空回りしても、笑っているんだ、沙月は。俺は、そんな沙月が好きだ。でも、この思いは伝えてはいけない。
もう、俺には時間がないんだ――。
「晴斗ー。この問題、解ける?翔も葉月も解けなかったの」
俺の気持ちに気付かない、沙月はシャーペンをカチカチさせながら、俺を見
る。時々、沙月の白い腕が当たり、俺は一人赤くなる。
――あーくそー。こいつ、マジで可愛くなりやがった……。
「任せろ。俺が解いてやる」
「ホントに?ありがとー」
無邪気に沙月は微笑んだ。俺は、顔を背けるように、問題を読み始めた。