私は、どうでも晴斗と話したくて、教室を抜けた晴斗を追いかけた。
『晴斗、待って。どうしていっちゃうの?』
私は足早に逃げる晴斗の背中に向かって、同じ言葉を何度も投げかけた。足
を止めることはない。
――疲れた。それに授業が始まってしまう……。
やがて、体育館の裏へときてしまった。人通りも少ない。また大きな木が三本も生えていて、日光を遮ってしまうほど暗い。
ふと、晴斗が止まった。私は勢いよく走っていたので、急に止まった晴斗の
背中に頭をぶつけた。
『いっ……た。あ、ごめん晴斗。痛い?よね……』
私は額を押さえながら、晴斗の前に行こうとしたとき、腕をグイっと引っ張られた。その次に、大きな音がした。
ドンッ。
私は瞑っていた目を開けると、そこには間近に晴斗の顔があった。顔の横には晴斗の腕がある。
――あぁ、これって、あれじゃない?壁ドン。うん。壁ドン。
だが、少女漫画のようには甘い気持ちにはなれない。なぜなら、目の前には
獲物を狩るような瞳があり、彼からはただならぬオーラが立ち上っているから。
『沙月。いいか。よく、聞け』
低くくぐもるような声で晴斗は言った。ごくりと喉が鳴る。
『俺と三つの約束をしろ』
『三つの、約束?』
『あぁ』
私を解放した晴斗は、立ち並ぶ木を見つめた。
『うん。私、約束する』
そう言うと、晴斗はこちらに振り返って笑いかけた。その笑顔は、なぜか悲
しげに見えた。
『それじゃぁ、一つ目』
晴斗が人差し指を立てて、私の目を見る。風がざわっと吹き、私の髪がなび
いた。もう、昼休みの時間はとうに過ぎている。
『俺と、もう一回仲良くしてください。……この間は、ごめん』
晴斗は頭を下げた。
『うん。もちろん』
私の声に安堵したような表情を見せた。
『二つ目』
『俺と、一年間、付き合ってください』
――待って、ちょっと待って。なんで一年間?なぜ期限があるの?
そんな疑問を浮かべながら晴斗を見ると、穏やかな目をしていた。
『沙月』
『……』
私はどうしようか悩んだ。晴斗のことは親友としてしか見てない。
『それは……あとで答える』
『そう。じゃぁ、三つ目』
『たとえ世の中が変わっていこうと、この瞬間があったことを忘れないで』
『?』
私は晴斗の言っている意味が分からない。
『う、うん。忘れない』
『じゃぁ、二つ目の答えは?』
悩む私に詰め寄ってくる。その距離は近い。背も私より高くなり、美少年に
なっていた。こんな人に詰め寄られると……。
『わかった。放課後に答えを出す。だから、教室で待っててくれる?』
思わぬ答えに晴斗は面食らったようだが、やがて、うん、と頷いた。
『放課後、待ってるよ』