「和宏……」

歩道に出て、歩き出そうとしたその時。

「お待たせ」

すぐうしろで声がしたので思わず悲鳴をあげてしまう。

「シーッ。俺だよ」

ニヤッと笑う和宏に、胸を押さえながら私は涙ぐんでいた。

「驚かさないでよね……」

「悪い悪い。たぶん普通のサラリーマンみたいだった」

「本当に?」

「ああ。でも結局、見失っちゃってさ。とにかく人通りのある道へ行こう」

そう言って歩き出す和宏に、まだ鼓動の速い胸を落ち着かせながらついて行く。
前を行く和宏が注意深くあたりを観察している。
やがて大通りに出るとようやくホッとできた。

はあ、とため息をつけばひときわ濃く白い息が生まれ宙に溶けた。