「ごめんごめん。そういうつもりじゃないよ。よほど怖い地縛霊がいるのかと思っていたから、こんな素敵な先輩でびっくりしたんだ。だから声をかけたんだ」

さらりとそんなことを言ってるけれど、それってナンパみたい。

「先輩って呼ばれるの好きじゃないの。部活もしていなかったし……」

「たしかにそうだね」

アメリカの俳優さながら肩をすくめた輪を見て、ようやく気持ちが落ち着くのを感じた。
生意気でオーバーリアクションの彼に救われた気分。

が、輪は少し考えたあと、
「それじゃあ、光莉って呼ぶよ」
なんて言ってくるから目を丸くしてしまう。

「え、呼び捨て?」

「光莉は僕のことを輪、って言えばいい」

「それは無理。『さん』とか『くん』とか……」

「ダメ。敬語とか苦手だし、『輪くん』って呼ばれるのは嫌いなんだ」

どうやらそうとうワガママな後輩らしい。

「輪って呼ぶの? でも……友達じゃないんだから」