名前も知らない男の子は断りもなく当たり前のように私の隣に座ると、ピッピッとカメラを操作して、なにやら撮った写真の画像を確認している。
……と、満足そうに微笑んだ。
そんな横顔に、小さく、ほんのわずかに心臓が反応する。
思わず男の子の顔から逸らした視線を、仕方なくその人が持つカメラに向けてみた。
大きくて長いレンズが付いた母体の裏側には液晶画面が付いていて。
最近のカメラってこんなに大きいんだ……なんて思いながら、まじまじと見入ってしまう。
私にとっては珍しくてたまらないカメラを見ていると、どこからか聞こえて来たトロンボーンの間抜けた音にはっとして、男の子と反対側に体をずらして少し距離を取った。
……せっかく一人になれる場所だと思ったのに。
こんな場所でも人が来ることを知ると、思わず溜め息が零れた。
「……」
……ん?
なんか隣から視線を感じるんだけど、これって気のせい……?
ではなかった。
ゆっくりと視線を横に向けてみると、男の子はあっけらかんとした顔で言う。
「君はどうして笑わないの?」
「……」
男の子の言葉にぐっと息を飲んで、何か言い返そうとして……やめた。
また、視線を下に落とす。
ベルトのような太い紐を付けて大切そうに首から下げているカメラはとても高価に見えた。
昼休みにまでカメラを持ってウロウロしているなんて、この人の趣味なのだろうか。
こんなところに一人で来ているのはどうしてだろう。
言い返せない代わりに、ふとそんなことを考えた。