私の座るベンチの斜め向かいから、カメラを構える男の子。
バレちゃった?と言いながら、焦る様子は微塵も見られないし、そんな中でもシャッターを切ることをやめない。
しかも少しずつ近づいてきているし……。
誰、この人……カメラマン?
「あの、勝手に撮らないで下さい……」
写真を撮られることには、あまり慣れていない。
というか苦手だ。
カメラを構えていて素顔が見えないから学年も分からない。
聞き覚えのない声だから、きっと話したこともない。
そんな男の子に控えめに、そう言ってみたけれど。
「君、ちょっと笑ってみてくんない?」
「あの……聞いてます……?」
至近距離で顔にカメラを向けられて、思わずレンズの前に手の平をかざす。
すると、やっとカメラを下ろしてくれた男の子。
「あ、やっぱダメ?」
ふわふわとした黒髪に、切れ長の目。
薄い唇が弧を描く。
おかげで顔ははっきり見えたけれど、どこかで見たことがあるような、ないような。
やっぱり名前は分からなかった。