いつも幼稚園から2人で帰っていた。いつも手を繋いでもらって、僕はその後ろをついていく。いつもにっこりと笑ってくれる、その笑顔が大好きだった。手の温もりが僕の臆病な心を包み込んでくれた。


 小学校に入ってからも、友達に虐められていた時に助けてくれたのは、お姉ちゃんだった。お姉ちゃんはお転婆で、勝気でいつも友達の輪の中心にいたけれど、いつも僕を助けてくれて、一緒に手を繋いで帰ってくれた。


 僕はいつも優柔不断で臆病で、いつもヘラヘラ笑っていたから、よく友達達に馬鹿にされた。でも、お姉ちゃんだけは僕のことを「優しい」って言ってくれた。「優しいことは勇気のいることなんだよ」と言って笑いかけてくれた。


 小学校3年生の時に両親が離婚した。僕は父さんに引き取られ、妹は母さんに引き取られることになった。僕も妹もこの街を出て行くことになった。どうして父さんと母さんが離婚したのか理由もわからないまま、僕達は街を出ることになった。


 父さんも母さんも別の街で暮らすことになった。泣いて縋る妹が、母さんに強引に引っ張られて、車へ乗せられて、母さんが運転する車が動き出した。僕と父さんを残して、車は小さくなっていく。車の窓から妹の泣き顔が見えるけど、僕は手を振ることもできなかった。ただ、俯いていただけだ。


 父さんが僕の手を引いて車に乗ろうとする。僕はその手を振り切って「お姉ちゃんにお別れを言いに行ってくる」と言って、隣の家へ入っていた。インターホンを鳴らすと、すぐにお姉ちゃんが出てきた。


 悲しかったけど、お姉ちゃんにお別れの挨拶した。


 お姉ちゃんはギュッと僕のことを抱きしめてくれた。そして「いつでも蒼大のことを助けるからね。どんなに離れても蒼大のこと助けにいくから。大人になったら、結婚して一緒に暮らそう」と言ってくれた。僕は嬉しくて「うん、僕、お姉ちゃんと結婚する」と答えた。


 遠くの街で暮らすようになって、お姉ちゃんとは会うことはなかった。僕はいつもお姉ちゃんを思い出して、窓を開けて、夜空を見つめては泣いていた。


 どうして、お姉ちゃんは迎えにきてくれないんだろうと悲しくて、悲しくて泣いた。


 月日が経つうちに、お姉ちゃんの記憶は段々と薄れていった。顔もぼやけて、きちんと思い出せない。ただ、優しいにっこりとした笑顔だけは思い出せる。


 父親が中学1年生の時に交通事故で他界した。突然の出来事だった。事故に巻き込まれたらしい。


 父が他界した後は、僕は親戚の家をたらい回しにされて、親類に育ててもらった。母さんは1度も迎えに来てくれなかった。


 その頃には、昔、幼馴染のお姉ちゃんがいたんだ。そのくらいしか覚えていない。


 父さんの遺産が残っていた。昔に住んでいた家。それと保険会社から受け取った保険金と父さんの貯金は、それだけでも僕が高校に通っていけるほどあった。


 僕はこれ以上、親戚に迷惑をかけたくないので、1人暮らしをすることにした。親類はみんな反対したけれど・・・・・・僕は逃げるように1人暮らしを始めることを決意した。


 高校への編入手続きも終わった。ハウスクリーニングに依頼して、家の掃除もしてもらった。


 これから、あの街に帰る。念願の1人暮らしが始まる。