草むらが、がそごそと動いたけど、導師じゃなかった。

結局、日が傾き始めるくらいまで探したけど、導師は見つからなくて、あきらめて家に帰った。

そこには、導師と菜々子ちゃんが待っていた。

「あれ! ずっと探してたのに、なんだよ」

「それはこっちのセリフよ!」

菜々子ちゃんは、やっぱり勉強していた。

学校から借りてきた辞書を、もう一人で引けるようになっている。

彼女が上がり込んで勉強していたら、お客さんが何人か来て、レジうちまでしてくれたらしい。

そしたら導師が帰ってきて、二人でお留守番してたんだって。

菜々子ちゃんは、めちゃくちゃ怒っている。

「どこほっつき歩いてたのよ、お店もほったらかして!」

「導師を探してたんだよ」

「あんた、まともに働こうとか、仕事する気あんの?」

「だって、導師がいなくなったんだもん」

怒る菜々子ちゃんと、余裕の導師。

「すまない、つい懐かしい顔を見かけたもんでな」

「あの白い猫、知り合いなの?」

そうだ、と、導師は答え、菜々子ちゃんは、違う、と言う。

「古い仲間だ」

「今日初めて会ったの」

彼女の言葉に、導師が反応する。

「なに? どこで会った?」

「導師と一緒に虫取りの訓練してた、河原だよ」

「そんなこと普段してんの? すごく大きくて真っ白な、綺麗な猫だったから、パン食べるかなーと思ってあげたけど、食べなかった」

それを聞いた導師は、猫猛ダッシュで外に飛び出していく。

「あ、ちょっと導師?」

ため息をついた俺に、菜々子ちゃんが言った。

「あの白猫と導師、お友達なのかな」

「古い知り合いなんだって」

「ふ~ん」

今日の修行だって、全然出来なかった。

てゆーか、まともに修行が出来た事なんて一回もない。

虫取りしたり、町の縄張りを探検したり、ひなたぼっこしてたり。

魔法使いの修行って、もっとなにか、違うもんじゃないのか?

「ねぇ」

菜々子ちゃんが言った。

「あんた、猫としゃべれるの?」

導師から、北沢くんにはしゃべっちゃダメっていう話しは聞いていたけれど、菜々子ちゃんに対してどうだったかは、聞いていない。

菜々子ちゃんの、もしかしたら未来がかかっているかもしれないことを、俺が判断するわけにはいかない。

「いや、どうだろ」

かといって、嘘もつきたくないから、適当にごまかしたつもり。

「ふ~ん、ま、どうでもいいけど」

思いっきり冷めた視線で彼女はそう言ってから、また勉強を始めた。

次の日になっても、導師は帰ってこなかった。

俺は、少し腹を立てている。

何度も確認して、魔法使いになる気はあるのかと言っておきながら、いざ始まったらこのザマだ。

本当にやる気がないのは、どっちだ。