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岩井幸太郎(イワイ コウタロウ)は海の見える公園のベンチで大きなため息を吐き出した。

着古したグレーのスーツはヨレヨレで、幸太郎の目の下にはクマができていた。

「もう、ダメだ……」

その悲壮感は街中全体を包み込んで、真っ暗な闇へと変えてしまいそうな勢いがあった。

幸太郎は半年前会社をリストラされ、そこから人生が一変した。

会社が不況を煽りを受けていることは知っていたし、自分が定年間近で若い子たちが自分の分の仕事までできるようになったこともわかっていた。

だけどそれは自分が最後まで会社に尽くし、定年退職後も業務が滞らないように日頃から若い子たちを育ててきたからだった。