「そうですね」

堤さんが頷く。

この町の人たちがタエの正体に気が付きながら、誰もなにも言わない理由があった。

「堤さんは昔キツネでしたっけ?」

「そうです。緒方さんは猫でしたよね?」

「そうですそうです。妖怪化した動物たちが普通の人間と恋に落ちると、人間になる。この町はほんとうに不思議な町ですねぇ」

「妖怪化してしまうと死ぬこともできませんからね。元動物たちに第二の人生が用意されている、素敵な町ですよ、ここは」

2人の話し声はタエには届く事なく、真っ青な空へと溶けて消えて行ったのだった。