ふとサンルームの方に目をやると、庭に森屋園芸さんがいるのが見える。


「あ、もう来てたんだ、森屋園芸さん」

「……うん」


 わたしがつぶやくと、青司くんは小さな声で返事をした。

 森屋さんと青司くんのお母さん、桃花先生とのこと。
 それをずっと考えているんだろう。

 実はまだわたしもびっくりしている。


 きっと……森屋さんもずっと桃花先生のことを忘れられなかったんだろうな。
 わたしと同じように。ずっと思い続けてきたんだと思う。


 もし、桃花先生がひょっこり帰ってきたら、そしてまるっきり違う人間になっていたら、森屋さんはどうしたんだろう。

 わたしみたいに、相手に対してギクシャクした態度をとっていただろうか。

 昔の桃花先生を投影しつづけて、新しい桃花先生を受け入れられなかっただろうか。


 わからない。

 森屋さんはわたしよりもずっと大人だから、もしかしたらどんな桃花先生も受け入れられていたかもしれない。


「わたしも……何か手伝うよ」


 そう。せめてわたしは。
 できることをしていかないとと思った。

 できないことを、できなかったことを、悔やんでもしかたない。

 今を生きるなら、今できることをしていかないと。


「そう? じゃあ、これ砕いてくれる?」


 そう言って渡されたのは、密閉できる袋の中に入ったクッキーと綿棒だった。


「その綿棒で、袋ごと中のクッキーを粉々にして」

「わ、わかった」


 カウンターでやるわけにもいかず、わたしはキッチンの方に移動する。

 この洋館のあらゆるものはだいたい外国製だ。なのでここも広い。

 コンロは業務用でゴツイし、その下は本格的なオーブンが内蔵されている。大きなレンジフードに、調理台は二人が悠々と作業できるぐらいの大きさだった。


 わたしはさっそく、青司くんの隣でバンバンと袋の上に綿棒を振りおろしはじめる。

 みるみるうちに中のクッキーが粉々になっていく。

 でも青司くんはあわててわたしの手を止めた。


「ああ、真白。あらかた砕いたら今度はこうやって……ゴロゴロ棒を転がして。そうするともっと細かくなるから――」


 わたしの手を取って、その上から青司くんが手を重ねて実演してみせてくれる。

 でもそれにわたしはまたドキドキしてしまった。