「また、無くしてしまったらって思ったら……。今度こそなんにも、最初から何もなかったみたいになってしまったら……怖いよ。そうなったらわたし、生きていられるか自信がない!」

「そんな、そんなことはもう……しないよ」

「わたしずっと、青司くんのことが……好きだった。初めて会ったときから……」


 ああ、言いたくないのに、こんなふうに言いたくなんてなかったのに。


「会えなくなってからも何年も、ずっと……。その間わたしの中では、時が止まってたの。昔のまま……。それが、ここ二・三日くらいで急に動き出して。この『今』は……嬉しいけど、あり得ない奇跡なの」

「真白」


 わたしは、もうわたしの中の不安を洗いざらい青司くんに打ち明けることにした。


「これは、奇跡。明日にはまた急に無くなってしまうかもしれない奇跡……。だから、いまだにこの状況に慣れてなくて……。そんな中、さらにそんなこと言われても、わたし……困る」

「うん、わかった。ごめん、急にこんなこと言って……」

「あ。いや、本当はすごく……すごく、嬉しかったんだよ?」


 青司くんの申し訳なさそうな顔を見て、わたしはあわててフォローする。

 だってこれは本心なのだ。

 好きな人に好意を向けてもらえるのは「嬉しい」。

 ただ、心が追いつかないだけ。


 青司くんはちょっと驚いたようにわたしを見た。


「それは、本当? 本当にそう?」

「うん……本当。『嬉しい』よ。好きな人にそう言われて……。その、キスとかも。びっくりしたけど……『嬉しい』」

「そっか。真白がそう思ってくれたなら、いいんだけど――」


 途中までそう言うと、突然、青司くんの顔がみるみるうちに赤くなっていった。

 なんだかわたしの顔をじっと見たまま固まっている。


「いや……ちょっと、待って。真白、やばい。やっぱ可愛いすぎる……」


 そう言うとスタスタと歩いて、キッチンの裏に行ってしまった。

 冷蔵庫から何かを取り出して、しきりに何かをしはじめる。


「せ、青司くん……? どうしたの?」


 追いかけて呼びかけると、青司くんは余ったフルーツタルトをケーキ用の白い箱に入れていた。そしてわたしを見るなり、またすぐにそっぽを向いて、箱だけこちらに渡してくる。


「……は、はい。真白」

「え?」

「だから、はい。またご家族で食べて」

「あ、うん……ありがとう」


 わたしはおずおずとそれを受け取った。