例えば、ここの色は暖色系を持ってきたほうが良いとか、フォントを手書き風はどうだとか。そういう具体的なアドバイスをくれればいいのに。今、五十嵐さんはOKをくれたのに。何故、入稿ギリギリになって周りも切羽詰まっている中で、そんな迷走しそうなアドバイスを出すんだろう。何、派手って。ワクワクって。MTGの時点では、シンプルな感じって言ったのは何処のどいつだ。

自分は上司らしく的確なアドバイスをしたと、勘違いな満足したのか、「じゃ、頑張れよ。」と最後に私の頭を2回叩いてこの場を離れる。

ここに残ったのは、沸点に達しそうな私の怒りと、気まずそうに申し訳なさそうにしている五十嵐さん。そして、私の横でもう一人気まずそうにする後輩くん。

以前ほど、潔癖ではない。飲み回しも、同じ皿の物を突いて食べる事も、相手によるけど出来るようにはなった。それでも、食べ物を直接手渡しされることや、人に触れられるのは未だに多少なりとも拒否反応は出る。距離感が近いのも、頭をポンポンとされるのもアウト。好みの相手だとかなら、ときめいたりするだろう行為。一回り違う、嫌いなオッサンにされるとイライラはもちろん、除菌をしたくなるし、何より殺意が芽生える。

きっと、私が喫煙者であればヘビースモーカーになっていただろう。煙草を吸う姿を、カッコいいと憧れる時もあるけど、健康面と金銭面を考えて吸わない。その変わり机の引き出しを開け、数種類の中からミルク味の飴を手に取り、口に入れる。チョコレートや飴、貰ったお菓子が詰まったスペースが、私の怒りの収まり場所。

今から、空気読めないヤツが残していった、クソみたいなアドバイスのせいで迷走する。私のデザインが終わらない限り進まない。まだ、明日があるとはいえ、間に合うかわからない。

言葉に出して溢せない怒りで、口内の飴を噛み砕きたいところ。でも、ここは会社で周りの人に迷惑が掛かるから噛み砕くこともできない。糖分を摂取している時点で、イライラしていることはわかってしまうけれど、少しでも緩和させないと怒りが爆発しそうになる。自分の能力がないせいであって、誰かが悪いわけではない。デザインは、終わりのない仕事だと思う。だから、常に逃げ出したくなる。

昼休憩を15分で終わらせて、昨日よりも長く12時前まで残った。五十嵐さんにはOKと謝罪を貰った。その上、駅まで送ってもらう羽目にもなり、流石にそれは申し訳なさすぎて、途中コンビニでホットコーヒーといくつかお菓子やおにぎりをプレゼントした。私を送った後も、会社に戻り仕事をするらしい。私が乗る電車は最終で、また五十嵐さんは朝帰りなのかと可哀想になる。