案の定、目覚めが悪い。それに、最近このアラーム音だけでなく、アラーム音に似た音にも敏感になってきた。

いつもより、1時間早く会社に行こうとして設定したアラーム。起きるには起きれたが、ダラダラと用意をしていたら結局予定より30分遅く家を出る事になった。それでも、いつもより30分早い。うん、それだけで十分な気がする。

会社にはすでに五十嵐さんがいて、仕事をしていた。昨日と同じ服だけど、髪はふわふわしてるからネットカフェか。いつか、ふらっと倒れてしまいそうに感じてついつい何度も見てしまう。あまり、ジロジロ見るのは良くない。

昨日残業したお陰で、自分では満足できる仕上がりになった。あとは、確認をしてもらってOKをもらうのみ。データを五十嵐さんのPCに送り、チャットでデータの確認をお願いしますと一言送る。席を立って伝えることも、その場から大きな声を出して伝えることもしなくていい。とても便利で効率的なやり取り。

「藤宮さん、データありがとう。これで進めてもらうよ。お疲れ様でした。」
「へぇ、どんなデザインになったんだ?」

これでエンジニアの東堂さんに渡せると、如何にもホッとした表情をした五十嵐さんの隣からコーヒー片手に現れたクソ飯塚。一応上司、たかが上司。営業部で、仕事の腕は確かでも、クライアントに見せる顔と部下に見せる顔は別人。入社して数日で、私は敬称を付けず、代わりにクソをつけて心の中で呼んでいる。昨日、五十嵐さんに怒鳴っていたのもコイツ。

「あー、こんな仕上がりになりました。」
「どれどれ。」

そう言って、腰を屈めてマウスを取られる。…近い。非常に近い。体を左に反らしても近い。今のご時世、そういう事に敏感だってことを知らないのか。席を立とうにも、背もたれを掴まれていて動けない。早く退いて欲しい。何なら、その片手に持っているコーヒーをぶち撒けてやりたい。

「ここさぁ、もうちょっと派手な感じにならない?こう、ワクワクするようなさ。」
「ワクワクですか。」