「貴殿が居てくれたから、私は安心できる」

「陛下。ありがたきお言葉。しかし、私は門番としての職責を果たしているだけです」

「わかっている。私が、帝国を倒せたのも、貴殿を得たからだ」

「それは違います。陛下。私は、陛下が住まう場所を守る門番です。それ以上でも、それ未満でもありません」

「そうだな」

 私は、王国で最後のピースを見つけた。
 彼の名は、”キール=デ・ファロウズ”。王国の名前と同じ”姓”を持つ人物だ。

 キールは、何時になったら、私からの求婚を受けてくれるのだろう。元王国国王の許可は出ているのに・・・。

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 門番の男から紹介された男たちに手順の詳細を聞いた。

 6回に渡って、約束が取り次げないと言葉を貰った。

「オリビア殿下。陛下が”明後日なら大丈夫だ”という伝言をお預かりしました」

「門番殿には、面倒をおかけした」

「私の職責です。オリビア殿下は、手順を守られたのです」

「・・・」

 私が立ち去ろうとしたら、門が開く音がした。
 何度か聞いているが、このタイミングで開けられるとは思っていなかった。

 振り返った私を、門番はいつもの体勢から、深々と頭を下げた。

「(・・・・)」

 門番が何と言ったのか聞き取れなかった。
 聞き取れなかったが、頭を上げた門番の表情が、今までと違っていた。

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 約束の日に、私は数名の部下を連れて、王城に向った。
 部下の中には、強硬論を唱える者も多かったが、ここまで来て強硬しても何も得る事がないと、部下たちを押さえつけた。忠誠心は高いが・・・。

「門番殿」

「オリビア殿下。お約束は?」

「シンシア=デ・ファロウズ陛下との面談の約束だ。お取次ぎを願おう」

「お聞きしております。どうぞ、部下の方々もどうぞ、そのままでお通りください」

「いいのか?」

「はい。陛下から、帯剣のままでよいと言われています。もし、帯剣の必要がなければ、私の職責でお預かりいたします」

「そうか」

「はい。確かにお預かりいたします」

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 今日で、王国は終わる。
 陛下はどうするのだろう?

 帯剣の許可をだした事から、玉座で最後を迎えるのか?

 今年ので7歳になる。

 逃げ出した前々国王の孫にして、私の義弟。陛下が居たから、私は門番としての職責を全うすることができた。前国王は、金目の物とお気に入りの女中を連れて逃げ出した。父だが、父とは思えない。母を殺して逃げ出した者を父と呼べるわけがない。私への当てつけなのか、義弟に継承権を与えて、王太子に任命していた。そして、私に門番の職責を与えた。義弟を守れと命令を出した。

 シンシアは、7歳だが、私よりも賢い。シンシアが平時の王になれば、王国も繁栄した未来が有ったかもしれない。

 そんな未来は来ない。

 馬の歩く音が聞こえる。
 王国を終わらせるために、王城を訪ねて来る。

 凛とした佇まいを持つ帝国の騎士だ。

 いつものやり取りを行う。
 これが最後かと思うと寂しくもある。

 陛下から帯剣の許可が出ていると伝えたが、オリビア殿下は剣を私に渡してきた。
 驚いたが、オリビア殿下なら、交わした約束をお守り頂けると思っていた。

 剣を受け取る手が振るえないように、しっかりと大地を踏みしめる。
 私は、陛下の門番だ。陛下の命がある限り、職責を全うするのみ。

 どの位の時間が経過したのか?
 すでに、陽が傾いている。

「兄上!」

 え?

「陛下!このような。それに、兄などと・・・」

「いいのです。兄上。僕は、もう国王ではなくなりました」

「え?」

 何が何やら、この数時間で何があった?
 朝の段階では、陛下は”最後の王”になることを心に刻んで覚悟を決めておられた。

「兄上。陛下がお待ちです。早く、玉座に向ってください。あっその剣は持っていってください」

「はい」

 なんとなく想像していた。
 一歩。一歩、踏みしめて歩く。陛下が後ろから着いて来てくれる。恥ずかしい真似は出来ない。

 私は、この剣で殺されるのだろう。
 それでいい。王国最後の門番として、門以外で死ぬのは本望ではないが、陛下の代わりに、義弟の代わりに死ねるのなら・・・。

 玉座には、オリビア殿下が座っている。

 義弟がオリビア殿下の前まで行って跪いた。そして、臣下の礼を取る。

「キール。現在の王国は、オリビア陛下が国王だ。陛下に忠誠を誓え」

 そうか、シンシアはオリビア殿下に禅譲したのか?
 王国の法を持って、王国を統合する。

 オリビア殿下の宣言が心を穿つ。

「キール=デ・ファロウズ。余が、オリビア=デ・ファロウズだ。貴殿に、新しい命を与える」

「はっ」

「キール=デ・ファロウズ。余が住まう場所の門番に命じる。いかなる時にも、余の許可なき者を通すな」

「はっ」

 私は、陛下から任命された門番だ。

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 オリビアは、最後のピースを得た。
 王国全土に新しい国王として戴冠したことを通知した。反発した、帝国兵もいたが、7割がオリビアに従った。従うしかなかったのだ。王国として、腐った貴族や豪商が駆逐されている。残ったのは、職責を全うしようとした者たちだ。オリビアは、その者たちをシンシアに預けた。
 王国の再建は信じられない速度で進んだ。

”帝国皇帝の崩御”

 オリビアの下に届けられた情報だ。続報を聞いて、オリビアの表情が変る。挙兵を決意するには十分な情報だった。
 帝国は醜い内戦に突入した。

 オリビアが国境に兵を集めても、帝国はまとまった兵力での迎撃が出来ない。
 オリビアの進軍を期待する市民まで出てしまっている。

 そして、オリビアは帝国の帝都に軍を進めた。
 傍らには、王国で手に入れた奇貨が控えていた。

 オリビアは、奇貨を得て、自らの信じる道を邁進することが出来た。
 二人は出会うべくして出会った。

「キール」

「はい。陛下」

「新たな命だ」

 門番は守るべき騎士を得た。
 騎士は最高の門番を得た。

 二つの国を併呑して尚も二人の歩みは止まらない。