私は、王家に仕えている。
仕えていると言っても、下っ端の下っ端の下っ端だ。しかし、私はこの仕事に誇りを持って挑んでいる。陛下から任命された職務だ。
「先輩」
最後まで残った部下だ。
軽いが、仕事はきっちりとやる。
「なんだ?」
「誰も来ませんよ」
この時間だと、貴族連中が陛下に面会を求めて訪れる。
「煩い。お前は・・・」
「はい。はい。わかっています。でも、この国はもう終わりですよ?」
「違う」
「違いませんよ」
「国王は残っていますが、有力な貴族連中も、皆が・・・」
「陛下だ。言葉を慎め。まだ陛下がいらっしゃる」
「その残っている人が問題ですよ」
「貴様は!」
「先輩。俺も・・・」
逃げ出すのか・・・。
「勝手にしろ」
これが現実だ。
この国は終わるだろう。
明日、終わるかもしれない。明後日かもしれない。しかし、私は”門番”の仕事を陛下からの任命されている。
私は、陛下が住まわれる王城を守る最初の騎士だ。
許可がない者を通すわけには行かない。それが、私の誇りであり矜持だ。
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門番は、私だけになってしまった。
今朝、アイツも立っている俺の所まで来て、一緒に逃げようと言ってくれた。
言葉は嬉しかったが、私にはその提案を受け入れることはできなかった。
「先輩。死なないでください。帝国のやつらは、逆らわなければ命は・・・。いいですか、絶対に逆らわないでください」
アイツの言葉だ。
解っている。帝国の奴らは、王都を取り囲んでいるが、市民には手を出していない。逃げ出した貴族連中も、拘束された者は居るとは聞いているが、罪なき者を罰してはいない。
罰しているのは権力をかさに着て、立場の弱い者から搾取していた者だけだ。王国の法に則って捌いている。権力が通じないだけだ。帝国と戦って死んだ王国兵の家族には、帝国が定める見舞金と遺族年金を約束している。
全ては、先頭で戦っている騎士が行っていることだ。自国の兵でも、王国民に暴力を振るった者は、厳罰を与えている。
地方都市で、帝国兵が王国民の女性を凌辱した。激怒した騎士は地方都市の門の前で、王国民と帝国兵が見ている前で、女性を凌辱した男たちを張り付けにした。そして、自らの剣で男たちの手と足を切り落とした。男たちは、張り付けにされた状態で死んでも放置された。帝国兵の中には、男たちの助命を嘆願したものたちも居たが、騎士は嘆願してきた貴族家の者を、その場で首を刎ねた。
王国は、もう終わりだ。
王城には、陛下と最後まで共にすると言った者たちが残っている。
門番が一人になってしまった。
でも、門を守らなければ。もうすぐ、帝国が来る。帝国の騎士が門を通ろうとするだろう。
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「起きろ!」
寝てしまったのか?
門が閉まっていることで安心した。門を背にして剣を抱いて寝てしまっていたようだ。
「あなた方は?」
「門を開けろ」
「できません。ここは、ファロウズ王国の国王陛下が住まわれる王城です。面会のお約束が無い方をお通しするわけには行きません」
「殺すぞ!」
「私も、死にたくはありません。しかし、一度、陛下から”門番”を任されたからには、殺されるからと言って逃げるわけには行きません」
「本当に殺すぞ。俺たちは、お前を殺して、門を壊すこともできる」
「解っております。しかし、私にも”門番”としての誇りがあります。貴方たちが、帝国兵としての誇りを持つのと同じです。お引き取り下さい」
「約束はどうしたら取れる?」
「所定の手続きがあります。王国では、これが”法”です」
「相分かった。手続きを教えていただけるか?」
「それは、私の権限では行えません」
「では、どうしたら?」
「わかりました。ここでお待ちいただけますか?詳しい者が居るか確認してまいります」
「お手数をおかけするが、頼めるか?」
「はい」
通用口を使って中に入る。多い時には、1,000人もの人が働いていた王城だが、現在では10名にも満たない。
寂しくなった。
陛下の世話係をしている老女を捕まえて、事情を説明する。
内政官が残っておられた。責任者は逃げてしまっていたが、実務を取り仕切っていた者が残っていた。面識がある。他にも、数名手続きに詳しい者たちを連れて、門に戻ると、馬上に居た騎士だけが残っていた。
剣を地面に突き刺している立っている姿は、騎士の名に恥じない姿だ。
金髪の髪が何故に靡いている。
絵画の一部だと言われても信じてしまうだろう。
声から察していたが、姿を見て確認した。
この者が、帝国軍の最高責任者。姫騎士で間違いない。そして、帝国の第一継承権を持っている。オリビア殿下だ。
他の者も、姿を見て確信したのだろう。
跪こうとするが、皆が踏みとどまった。
私が、殿下の前に出て、話始めたからだ。
私の役目は、門番だ。
帝国の第一継承権を持つ姫騎士でも、私のやることは変らない。
許可がない者を通すわけには行かない。