二人の少女は、学校の帰り道にある神社に来ていた。

(おねがいです。大好きなだいちゃんと両思いになれますように!)
(大好きなたっくんが私の事を好きになってくれますように、お願いします)

--
 4人の少年と少女は、学校の帰り道にある神社に寄った。
 学校の宿題をするためだ。

「ねぇ本当に”ここ”なの?」
「宿題には丁度いいだろう?」

 反対する女子に、男子が肯定させるための意見を話している。

「そうだけど、ちょっと怖いよね」

 もうひとりの女子も怖がっている。

「大丈夫だよ。俺、この前の祭りでも来たけど何もなかったぞ」

 男子が怖がる女子二人に向けて言葉をかける。
 男子たちは、この薄暗い神社で遊んだ事もある。

 出された宿題の写生に向いた場所である事も知っている。
”町と海と空”
 先生から出された写生のテーマだ。神社は小高い山の中腹にあり。神社から見える景色は、小さな港町。

 宿題を終え神社から帰る4人。
 夕日に染まる景色を見ながら長い急な階段を降りている。男子が先を歩いて、女子が続いている。

(キュォーン)

「あっ!」

 女子の1人が急に声を上げる。
 男子二人が振り向いた。

 女子二人は、ミニスカートだった事を思い出して、スカートを抑えるが急な階段では意味がない。

 夕日の様に染まる女子と男子の顔

「見た?」
「見えてない」

 二人の男子の顔は、パンツを見た事を物語っている

「うそ?」
「見えなかった。見てない」
「本当?」
「うん」

 嘘なのは明白なのに、男子は嘘をついた。見られたのは解っているが、嘘を信じた二人の女子。

 学校に提出された4枚の似たような構図で描かれた宿題。
 その中の1枚が金賞を獲得する。

 4人は幼馴染だ。家が隣り合っている。

「神社にお返ししないとね。特に、たっくんは!」
「俺?」
「そうでしょ!金賞が取れたのも、神社で写生したからでしょ!」
「そうね。それに、私のパンツを見たでしょ?」
「だから、見てない!早織のパンツもは見てない」
「嘘!だって、大ちゃんが喋ったよ!私が白で佳奈がピンクだったって!」
「大介!お前!内緒だって約束しだろう」
「だって、教えなかったら」
「なんだよ!」
「拓也が、カナちゃんの事を好きだって、カナちゃんにバラすって」
「おま、何を、佳奈!違うから」
「え?違うの?私、たっくんの事、大好きだよ。たっくんなら見られても平気じゃないけど、いいよ?」

 4人の中に微妙な雰囲気が流れる。
 早織は、パンツの事を聞き出す時に、大介の事が好きだと告白している。大介も早織の事が好きだと言った。だから、二人は佳奈から気持ちを確認して、拓也と佳奈をくっつけようとしていた。
 見事成功した・・・?

 大人になった4人は、同じ組み合わせで、同じ日に同じ場所で結婚式をあげる事になるのだが、まだ4人は知らない。

「そっそうだな。俺が金賞を取れたのも、神社のおかげだからな!お返しは必要だな!」

 耳まで赤くして、拓也は佳奈からの告白をスルーするつもりで居る。

「たっくん!」「拓也!」

 早織と大介は、佳奈の横に立って、拓也を睨む。
 涙目になっている佳奈を慰めているようだ。

「うぅぅ」
「拓也。男だろう!」「たっくん。情けない。佳奈。拓也じゃなくて、克己にする?」
「おぃ!早織!大介も。そうだよ。俺は、佳奈が好きだ!佳奈の事が大好きだ!佳奈!俺を好きになってくれるか?」
「うん」

 早織と大介の間に居た佳奈は、拓也の告白を受けて、拓也の腕に走って抱きついた。
 小さく膨らみ始めている部分を拓也の腕に押し付けるように抱きしめる。

(キュォーン)

 神社の方から鳴き声が聞こえたように感じた4人は神社の方を見つめるが、動物が居る気配はない。
 そのまま、4人はお返しをするために長い急な階段を登るのだ。

(私が大ちゃんと一緒に居たいって願ったのを聞き入れてくれたの?)
(僕がさっちゃんと一緒に居たいと言ったのを聞いてくれたのか?)
(私がたっくんと恋人になれる事を認めてくれるの?)
(俺が佳奈の事を好きだって言ったからか?)

 それぞれの願いを思いながら、神社の境内を掃除して綺麗にしている。写生大会で金賞を取れたというのはこじつけに近い。

 早織は、パンツの一件があり大介と両思いだとわかった事のお返しをしたかった。
 大介は、早織からの思いがけない告白が嬉しかった。そのお返しをしたかった
 佳奈は、早織が嬉しそうにしているのが嬉しかった。拓也の金賞が素直に嬉しかった。そのお返しがしたかった
 拓也は、なんだかわからないがお返しをしなければならない気分になっていた

 神社は、祭りの前や祭事の時に掃除を行う。そのための準備もされている。
 宮司や神主は居ないのだが、掃除道具や神社を維持するための物は、地域の住民が準備をしてくれている。災害時の避難場所にもなっているために、地域の住民が順番に掃除をしているためだ。自分たちだけで行うのは初めてだが、落ち葉を一箇所に集めたり、手水舎を綺麗にする事はできる。
 2時間くらいかけて自分たちにできる掃除を行った。

「この落ち葉はどうしたらいい?」
「父さんに言っておくよ」
「そうだな。大介のオヤジさんがいいだろうな」
「そうね」「うん」

 大介の父親が船乗りで、船乗りが港で焚き火をする時に、神社や近くの山から落ち葉を拾ってくるのを知っている4人は、落ち葉を集めて袋に入れておく事にした。
 自然と、大介と早織、拓也と佳奈のペアに分かれて作業をする事になる。
 翌日から、学校に行くときにも自然と二組に分かれる事になる。

--
 4人がそれぞれの想い人と付き合い始めてから5年。
 中学3年生になっていた。

 『科学技術高等学校』科は違うが、4人とも同じ高校を目指して勉強していた。
 大介は、建築デザイン科。早織は、都市基盤工学科。拓也は、ロボット工学科。佳奈は、情報工学科。

 受験勉強もそれぞれ頑張って、合格率もかなり高い所で安定していた。

「ねぇ大介。最後に神社にお参りしていこうよ。学問の神様だっていうし、丁度いいでしょ?」
「そうだな。拓也はどうする?」
「俺?そうだな。最後は神頼みだからな。軽く掃除して帰れば、ゆっくり寝られるからな。佳奈もその方がいいだろう?」
「うん。心配で勉強しちゃうと混乱するから、今日は早く寝ろって言われているから、その方がいいかな」

 4人は、付き合うきっかけをくれた神社に久しぶりに向かった。
 中学校の方向とは違う為に、足を向ける事がなかったが、神社は同じ場所にあの時と同じ様に立って皆を見守ってくれている。

「拓也!佳奈のスカートの中を覗かないでよね!」
「ばっそんなことするか!」
「そうだよね。佳奈に言えば見せてもらえるのだろう?」
「なっ大介!お前もそうだろう!俺はちが・・・わないけど・・・違う!」
「そうよ。大介には私が居るの!だから、私のスカートの中を覗かないでよね!」
「そんな事するかよ!」「たっくん・・・。私の・・・ダメなの?」

 4人はじゃれ合いながら階段を上がって、小学生の時にお返しに来た時の様に掃除をして、綺麗になった境内で合格を祈願した。

(大介と同じ高校にいけますように。できたら、このまま一緒にずぅーといられますようにお願いします)
(早織が高校に合格しますように、僕は実力で合格します。だから、早織と一緒の高校に入れますようにお願いします。そして、早織と一緒にいられますようにお願いいたします)
(高校に合格できますように、あと、たっくんとだいちゃんとさおりんと一緒にいられますようにお願いします)
(佳奈と一緒にいられますようにお願いします。あと、高校も合格できますようにお願いします)

(キュォーン)

 4人は、鳴き声を聞いたと思ったが、もしかしたら神様が願いを叶えてくれると言ってくれているのかと思って黙った。

 数日後、4人は志望校の希望した科に合格した。また4人で一緒に通える事を喜んだ。両親たちも子供の合格を喜んだ。

 高校の入学式の前日に、4人は神社にお返しに訪れた。
 今度は、4人の両親も一緒だ。12名で神社を綺麗に掃除して、お返しの為のお供えをした。

(キュォーン)

--
 4人は、高校卒業して地元の企業に就職した。
 就職先はバラバラだったが付き合いは続いていた。寂れた港町での生活を続けていた。

 佳奈の25歳の誕生日に、拓也は佳奈に、大介は早織にプロポーズした。別々の場所で行ったが、大介は拓也ならこの日を選ぶだろうと考えていた。佳奈と早織は、お互いに知らされていなかったが、お互いに報告しようと連絡した時に、事実に気がついた。そして、結婚を承諾したのだ。

 4人は、付き合い出すきっかけをくれた神社から少し離れた場所に新居を構えた。
 大きめな土地が売り出されていたのを買って家を建てたのだ。

 そして、3年が過ぎた。
 お互いに子供はできていないが、夫婦仲も4人の関係も小さいいざこざはあるが問題なく過ごしていた。

 しかし

「大介!どういう事だ?!」
「・・・」
「大介!早織は?佳奈は、無事なのだろう!?」

 そこは、深夜の病院だ。
 拓也が怒鳴っていい場所ではない。怒鳴っていい場所ではないが、怒鳴っている拓也を止める者は1人もいない。

 拓也が仕事をしていた所に、大介から電話が入った。
『早織が刺された。佳奈ちゃんも一緒だ』

 大介には、早織が刺される心当たりがなかった。佳奈が自分の妻が刺されるのなら。あいつが犯人に違いないと思っていた。だから、早織が刺されたと聞いた時に、刺されたのは佳奈で早織からの連絡では・・・、と思っていた。

「たっくん」
「佳奈!!!無事なのか?」

 佳奈は、拓也の胸に飛び込んで泣き出してしまった。
 腕と首に巻かれた包帯が痛々しい。

「佳奈。佳奈。佳奈」
「・・・。たっくん。わた・・・し、さお・・・りんが、わた・・・しを・・。どう・・し・・よ」
「佳奈ちゃん。佳奈ちゃんは悪くない。悪いのは、刺したあいつだ!」

 佳奈を大介に預けるような仕草をして、拓也は出口に向かおうとする。

「拓也!」「たっくん」

 大介は、とっさに拓也の腕を掴む。拓也が何をしにいこうとしたのかが解ったからだ。

「離せ!大介!俺は、俺は・・・。許せない!あいつにお返しをしないとダメだ!爺さんにも言われている。恩には恩を、仇には仇を、しっかりお返しをしないとダメだと教えられた!だから、離せ!大介!」
「お返しは必要だろう。必要だけど、俺たちがする必要はない!いいか、お前は佳奈ちゃんと一緒に居ると誓ったのだろう!なんで離れようとする!遠くに行くな!拓也。佳奈ちゃんを1人にするな!」

 佳奈のすがるような目線。
 大介の怒りに満ちた目線。

 この場に居ないが。早織が、望んでいない事も解っている。解っているが、拓也は自分が許せなかった。

 街で佳奈を見かけたという理由で、一目惚れしたとか言ってストーキングしてきた男。
 警察に訴えて、接近禁止命令を出したが効果がなかった。日に日にエスカーレとしているのは解っていた。地元に居る時は安全だと思っていた。事実、地元は安全だ。知らない人が街の中を歩いていればすぐに解る。ストーカーもこの街には入ってこられない。
 だから、拓也は安心していた。
 まさか、買い物に行った場所でストーカーが待ち受けていたとは思っていなかった。佳奈を拉致するつもりで、スーパーの駐車場で待っていたのだ。早織がいち早く気がついて、佳奈をかばった。佳奈も、腕と首を切られたが命に関わるような傷ではない。
 早織は、腹部を刺された。
 犯人だったストーカーは車に乗って逃げた。
 後日、崖から転落して死亡しているのが見つかった。犯人の死体は、神社の山を隔てた鬼門の方角で見つかった。

「たっくん」
「わるい。佳奈。大介。すまない」
「大丈夫だ。僕はここに残る。拓也。佳奈ちゃんが警察に呼ばれている。付き合ってやってくれるよな」
「わかった」
「警察には、僕は病院に残っていると伝えてくれ」
「わかった。佳奈。行こう」
「うん」

 手術は、8時間にも及んだ。
 子宮や腹部の血管が傷ついていたためだ。

「大ちゃん」
「早織!」
「ごめんなさい」
「何を謝る!早織は、佳奈ちゃんを守ったのだぞ!」
「うん。でも」

 お腹を撫でる早織。
 医者に聞いている。子宮一つがダメになった事。もう一つも血流が止まっていた事から、残せたのだが子供は諦める必要があるだろうという事だ。

「早織。僕は、早織が無事なのが嬉しい。佳奈ちゃんが無事なのが嬉しい」
「でも、お義父さまやお義母さまに」
「それは気にしなくてもいい。オヤジもおふくろも、気にしないと思う」

 大介の両親は事故に巻き込まれて他界している。

「でも」
「早織!そうだ!退院したら、神社にお返しに行こう!」
「お返し?神社?」

 警察から開放された、拓也と佳奈は夜中にもかかわらず、きっかけをくれた神社に早織の無事を祈りに行った。

 その事を、大介から聞いた早織は声を出して笑ってから
「そうね。あの二人のことだから、祈っただけで、お返しはしていないでしょうから、しっかりとお返しの掃除とお供えをしないとだね」
「あぁそのためにもまずは退院しないとな」
「わかった」

 早織は、ゆっくりと大介を見てから
「大介さん」
「なんだ」
「愛している」
「俺もだよ。早織。世界で一番愛している」
「知っている。私のパンツだけを見ていた時から解っているよ」

 お互い抱きしめて、優しいキスをする。

 早織の目から一筋の涙が流れた。
 大介は、涙が何に由来する涙なのかわからなかった。
 早織もなんで自分が泣いたのかわからなかった。

--
 事件以来、4人の関係が少しだけギクシャクしていた。

 中でも佳奈が一番思い悩んでいた。拓也との子供は欲しいけど、早織を子供が産み難い身体にしてしまった自分が拓也との子供を願っていいのかと考えていた。
 それが解っている早織は佳奈を神社に連れ出して、声に出して願い事をした”拓也と佳奈に子供ができますように!できれば、女の子と男の子!拓也と喧嘩した女の子が、私の所に来て、拓也の悪口を言うのを聞いて、私はその子に、それじゃ家の子になる。と勧めるのが夢です。お願いします。是非、拓也と佳奈に女の子と男の子をお願いします!”

(キュォーン)

 二人は確かに動物の鳴き声を聞いた。早織の願いを叶えてくれるという事だ。
 それから、2ヶ月後に佳奈の妊娠が発覚した。

 それから、7ヶ月。4月の上旬だ。
 事件の時とは、立場が逆になった。

「拓也!佳奈ちゃんは!」
「・・・」

 椅子に座る拓也。暗い病院に木霊する。大介の怒鳴り声。

「拓也!」

 拓也の耳には、大介の怒鳴り声が聞こえていなかった。

「あっ大介。悪いな。仕事だったのだろう?」
「ふざけた事をいうな。拓也。佳奈ちゃんは?お前たちの子供はどうなった!」

 子供ができた時には、拓也と佳奈以上に大介と早織が喜んだ。二人が、自分たちを気にしているのがよくわかったからだ。

「まだ」
「そうか、怒鳴って悪かった」
「いや、ありがとう。早織は?」
「もうすぐ来る」
「そうか、すまんな」
「何を、謝る?」
「大介。俺」

 大介には、拓也が何をいいたいのか解る。
 間違っていると否定するのは簡単だ。でも、大介に否定されても、拓也が納得しないだろう。それは、大介が一番解っている。

「俺も早織も大丈夫だ。それよりも、佳奈ちゃんの事を考えろ!」
「あっあぁ」

 佳奈は今でも苦しんでいる。早織の幸せを奪った自分が、子供を産んでいいのかと悩んでいた。

「拓也!大介!」
「早織。ありがとう」

「”ありがとう”じゃないわよ。拓也。佳奈は?子供は?」
「早織。少し落ち着け」
「落ち着いていられないわよ!それで、犯人は?」
「捕まった」

 拓也と大介の表情から、早織は悟ろうとしたが無理だ。
 早織が教えられたのは、”佳奈が、階段から突き落とされた”という事だけだ。きっかけの神社近くの近くにある階段だ。なんで、佳奈がそんな所に行ったのか、誰にもわからない。突き落とされて、倒れている所を発見されて病院に運ばれた。
 帝王切開での出産が急遽決まった。同時に、佳奈の折れてしまった骨の手術も始まった。肋が折れて肺に刺さっていると言われている。

 犯人は、佳奈をストーカーして早織を刺した男の父親だった。犯行後、逃げる姿を目撃されて、すでに捕まっている。

「拓也。手術はまだ掛かりそう?」
「わからない。わからない。医者には、子どもたちは諦めてくれと言われた。でも、佳奈が・・・。絶対に産むと言って・・・。俺。どうしたら・・・。早織。大介。俺・・・佳奈を、助けて・・」

「わかった。大介。車?」
「表に停めている」
「一緒に行こう」
「どこへ?」
「決まっているでしょ!」
「わかった!きっかけの神社だな」

「拓也。無事に手術が終わったら、早織に連絡入れろ、すぐに戻ってくる」
「あぁあぁわかった!」

 大介と早織は、許される限界の速度で神社に急いだ。
 自分たちに何ができるのかわからない。わからないが、できる事はこれしか無いと思っていた。自分たちをつなげてくれた。早織の命を助けてくれた。

(お願いです。拓也と佳奈の子供と佳奈を助けてください。お願いします!)
(佳奈ちゃんと、双子の兄妹を助けてください。俺と早織の子供です。お願いです。助けてください)

 二人は必死に祈った。
 1時間以上祈っていただろう。

(キュォーン)

 二人は確かに聞いた。
 動物の鳴き声を・・・。これで、3人は助かる。二人は、そう思って、身体から力が抜けてしまった。
 温かい地方でも4月の朝方は冷え込む。二人は、神社の境内で五体投地の状態で気を失っていた。車が停まっている事を不審に思った新聞配達員が見つけて救急車を呼んだ。

 二人は、病室で嬉しい知らせを2つ受ける事になる。
 医者から教えられた”佳奈も子どもたちも無事”という知らせだ。

 早織はすぐに拓也と佳奈に連絡をしたかったが、自分たちの検査が終わるまでは待って欲しいと医者に言われてしまった。早織は大介が大事なので医者に従う。大介は早織の事が大事なので医者に従う。

 そして、検査結果を聞きに来た二人に医者が告げる。

「川島さん。無茶しないでください」
「え?」「は?」
「自覚症状がなかったのですか?」
「え?なんのことでしょうか?」
「川島さん。赤ちゃんができていますよ?冷えなんてダメですよ。本当に無茶しないでくださいね」

 大介と早織は、お互いの顔を見る。
 二人は子供ができないと諦めていた。夫婦の営みが無いわけではない。万分の1。いや億分の1でも可能性があればと思っていた。

 早織は自覚症状が無いわけではない。ただ自分の状況では考えられないと思っていた。

「先生。本当ですか?」
「はい。間違いありません」
「でも、私、子宮は?」
「片方は残念ですが、一つは正常な状態です」
「本当ですか?」
「はい。おめでとうございます」

「大介さん」「早織」
「うん」「うん」

 10ヶ月後に、早織も男と女の双子を産む事になる。

 4人と子供で神社に、お礼とお返しをした。

(キュォーン)

 4人は、確かに動物の鳴き声を聞いた。

--
「ねぇママ!パパは、この神社でママに告白したの?」
「違うわよ。パパと大介パパは、ママと早織ママのパンツを見たのだよ」
「えぇエッチだ!」

「佳奈!」
「だって、本当の事でしょ?私が履いていたパンツの色まで覚えていたのだから」
「佳奈。俺は、お前しか見てない!早織のは見てない!」
「ふふふ。そうね。早織を見ていたのは、大介だからね!」

「パパ!早く!」「拓也パパ。遅いよ!佳奈ママも早く!」

 4人の子供が元気よく神社の階段を上がっていく、拓也と佳奈は、後ろから歩いてきている、大介と早織に声をかける。
 今日は、4人にとって忘れられない日である。男子二人が、女子二人のパンツを見てしまった日なのだ。

 それを思い出しながら、大人4人と3歳になった子どもたちは、今年も無事に過ごせた事を、神社に報告して、一年前にもらった物を返して、新たにもらう為に神社の掃除を行うのだ。

 もらう物は、大切な時間と気持ち。
 お返しするのは、感謝の気持ち。

fin.