「うわーっ、キレイ!」
「ふふん、お嬢様方、ドルチェ二種盛り、ベリーとチョコソースを添えてです」
衛が椅子を引いてやり、少女達は席についた。
「プリンが丸くない……」
「ああごめんな、プリン型がなくてな」
「しかたないね。梨花ちゃん、これが丸くないけどプリンだよ」
「へぇ……」
梨花はじっと皿の上を見つめて、衛に聞いた。
「この字はなあに?」
「ああそうか、まだローマ字読めないのか。いい? こっちが『りんか』、でこっちが『みずは』」
「わぁ、お名前を書いてくれたの?」
梨花と瑞葉はプリンにスプーンを入れてさっそく口に運んだ。子供向けにカラメルはあまり苦くないように調整してある。
「うーん、パパのプリン美味しい」
「プルプルしてて卵焼きみたい」
「そうだな、ゼラチンを使ってないから市販のプリンと違って卵の味が濃いと思うよ」
続いて二人は、アイスクリームとプリンを一緒に食べた。瑞葉がじたばたと足をばたつかせる。
「はー、苦いのと甘いのを一緒に食べると美味しい!」
小さい頃から色々と食べさせていた所為か、瑞葉の舌は子供の割に肥えている。
「アイスクリームまで……贅沢ですねぇ」
梨花はしみじみとそう言った。さっきのプリンの時といい、リアクションが一々新鮮だ。
「もしかして、プリン食べた事なかったとか」
「あ、そうなんです。その話をしたら瑞葉ちゃんがご馳走してくれるって」
「そうなんだ……」
今時プリンを食べた事がないなんて、よっぽど厳しい親なんだろうか。それとも……衛はある考えに行き着いて血の気が引いた。
「も、もしかして卵アレルギーとか!?」
「いえ、アレルギーはありません」
「そっか、よかったー」
衛は胸をなで下ろした。ご馳走するのはいくらでも構わないけど、今度からは確認しないとなと衛は反省した。その横で、二人の少女はもりもりとおやつを平らげていく。
「ふーっ、おなかいっぱい!」
「ごちそうさまでした」
瑞葉が満足そうに口を拭い、梨花は衛に向かって手を合わせた。なんだろう、さっきから漂うこの違和感は、と衛は思った。梨花の行動がどうも年相応でないというか。
「それではお礼にトイレ掃除をさせて下さい」
「へっ、いやいやお客さんにさせるわけには……」
突然の申し出に衛は面食らった。トイレ掃除? 瑞葉も嫌がってやらないのに、と。
「そう……ですか……。あの、瑞葉ちゃんから何も聞いていませんか」
「いや、梨花ちゃんが来るとだけ……」
「あらやだ。瑞葉ちゃん、瑞葉ちゃんのパパは大丈夫だって言ってたじゃない」
「ん? 大丈夫だよ? 梨花ちゃんが人間でなくても」
そこまで聞いて、衛は眩暈がした。梨花は人間ではない? という事は、瑞葉がずっと親友のように語っていたのは人外のあやかしの類いだったという事だ。別にあやかしの存在を否定する訳ではないが瑞葉の将来がちょっと心配になってしまう。
「では、キチンと自己紹介を、私の本当の名前は『花子』。梨花は瑞葉ちゃんがつけたあだ名です」
「だって、花子なんてねことかいぬみたいでしょー。今時っぽくないっていうかー」
「そして私の通称は『トイレの花子さん』……厠神の一種です」
「トイレの花子さん!?」
道理でどこかで見た事のある気がしたのだ、と衛は思った。実際、衛が花子さんを見た訳ではないが、赤いスカートにおかっぱ頭というイメージがまさにそれだった。
「ここはあやかしのよろず屋でしょう? ですから私は何かお返しをしなければなりません」
「いやあ……そうだ、梨花ちゃんには翡翠を探すヒントを貰ったし、そのお礼という事で」
「翡翠……?」
梨花が首を傾げると、テーブルの上の藍と翡翠が人型に変化した。
「あなたが翡翠の鳴き声を聞き取ってくれたのですか……!」
「おかげで姉様と再び出会う事ができましたっ!!」
二人でまるで食いつくかのごとく、手を握り、頭を下げて感謝を捧げる。
「そんな、大した事してませんから」
梨花は勢いに飲まれて居心地悪そうにしながらもそう言って頷いた。
「ってな訳で、トイレ掃除は今回はいいので」
「いや、アイスも頂きましたので遠慮なさらず」
梨花が微笑みながら手を振ると、トイレのドアがばんと音を立てて開いた。
「穢れよ、ここから立ち去りなさい」
そういうと、もわっと黒いもやのようなものが膨れあがり、トイレの窓がら出て行った。
「ほんのお礼です」
「は、はい……」
衛はあっけにとられて、黒いものが飛び去った方向を眺めていた。
「本当にお礼したかったんです。瑞葉ちゃんは私とお友達になってくれたし……」
「梨花ちゃんが見えるの私だけみたいなのー」
「勘の良い子は声が聞こえたりするみたいなんですが、こうやって一緒に遊んでくれるような子はあまり居なくて……瑞葉ちゃんが転校してきてから退屈しなくなりました」
「そ、そりゃ良かった」
衛の胸の動悸がようやく治まったのを見届けて、梨花は帰っていった。……学校の方向へ。
「あら、トイレの電灯取り替えたのかい?」
「ああ、いや掃除しただけです」
「ふーん……まぁいいさね。これくらい気合い入れて掃除するときっと良いことがあるよ。なんせトイレには神様がいるからね」
外から帰ってきたミユキにそう言われて、それなら穂乃香が帰ってきますようにと衛はトイレに向かって拝んだ。
今日も、総菜屋『たつ屋』の客足は芳しくない。衛はテレビを見ながらあくびを噛み殺しながら店番をしていた。
「ヒマそうだのう」
「あ……」
「宣言どおり来てやったぞ、どれコロッケは……なんだ3つしかないのか」
そこに現れたのは葉月だった。肩には白玉が乗って辺りの匂いを嗅いでいる。
「他にメンチとかもあるけど……」
「ほう、これも美味しそうだ。なぁ、白玉」
「あ、猫にコロッケとかメンチカツあげちゃだめですよ。タマネギ入ってますから」
「そうなのか、では白玉が猫又になるまで待たなくてはならんな」
「とんかつならタマネギ入ってないですけど」
「ではそれも貰おう」
葉月は大量に揚げ物を購入してお金を支払った。このお金はどこから来たんだろう、まさか葉っぱに化けたりしないよな、などと衛は考えた。顔に出ていたのだろう、それを見た葉月は鼻を鳴らして言った。
「これは稲荷の賽銭だ。心配するな」
「あっ、すみません……それにしてもそれ全部食べるんですか」
「揚げ物は好きだな。ほれ、人間と違って太ったりなんぞしなくていいからの」
そりゃ羨ましいな、と近頃緩んできた自分のお腹の事を衛は考えた。
「おっ、ほら見ろ」
葉月が急にテレビを指さした。やっているのはお昼のワイドショーのワンコーナーである。
「カレーパンですか」
「この店、ここから近いぞ。私も以前買いに行った事がある」
「へぇぇ、うまそうだな」
「うむ、なんせカトレアのカレーパンは正真正銘の元祖だからな」
「ほう」
元祖といってもそれで美味いとは限らない、と衛が考えていると葉月はさらに続けた。
「具がたっぷり詰まっていて……うーん食べたくなってきた……」
「そのコロッケとかどうするんですか」
「そうだった。とにかく私のおすすめだ。今度行って見ると良い」
そう行って葉月は白玉を連れて去っていった。
「カレーパンかー。そういえば近頃食べてないなぁ……」
カレーパンの事を考えていたら無性にカレーパンが食べたくなってきた。確か葉月は近くだと言ってたな、と衛は携帯で検索してみた。
「森下……十分も歩けば着くか」
出てきた情報によれば、一日三回の焼き上がり時間があるようだ。今なら十五時の焼き上がりに間に合う。
「ミユキさーん」
「なんだい、うるさいね」
なにやら奥で内職めいた事をしていたミユキが、ひょこっと顔を出した。
「ちょっと出かけてこようと思うんですけど……なにしてるんですか」
「これはあやかしにあてられた人間を守る護符さ。あんたが頼りないからあたしが稼いどかないとね」
「すみません……」
「いいさ、何かしないとボケちまうし。で、どこに行くんだい」
「森下のカトレアってパン屋さんに」
ミユキの目がほう、と細くなった。
「カトレアのカレーパンだね……そういや最近食べてないね……」
「じゃあ、明日の朝ご飯用に3個買ってきます」
「いや……六個買って来な」
「多くないですか? まぁ、いいですけど」
ミユキの承諾を得て、衛は森下へと向かった。プラプラと通りを歩く。道は広くてキレイなんだけど、こんな所にパン屋なんてあるのか、と思っている所にその店はあった。
「カトレア、ここだ」
早くも行列が出来ている。衛はその列の最後尾に並んだ。
「三時の分焼き上がりましたー」
という店員の声に列に並んでいる客はそわそわしだす。香ばしいいい匂いが漂ってきた。
「これは美味しそうだ」
じっと順番を待って、ようやく自分の番がやってきた。
「何個ですかー」
「あっ、六個お願いします」
「はーい」
そう言って、詰めてくれたパンはどっしりと重たかった。それにしても衛からしたら羨ましい盛況ぶりである。
「うちも何か名物があればいいのかな」
いまだ、『たつ屋』の繁盛を諦めていない衛であった。
自宅に帰ると、瑞葉も学校から帰って来た所だった。二人を前にカレーパンを広げると、ミユキも瑞葉も顔を輝かせた。
「おお、揚げたてだね」
「ええ、まだちょっと温かいです」
「はやく食べようー」
結局そうなるのか、と衛はため息を吐いた。
「楽しそうね」
「僕ら食べられないのが残念だね」
藍と翡翠はそう言いながら、ミユキと瑞葉の喜びようを見ている。
「じゃあ、せっかくだから頂きますか」
「はーい」
「瑞葉のは甘口のやつな」
今日のおやつは揚げたてカレーパン。三人それぞれ、パンに食らいついた。ざくっとした衣を噛むと中から具が溢れてくる。惜しみ無く入れられたカレーは懐かしい味付けでとても美味しい。
「うーん、揚げ油は植物性かな」
サクサクと軽く揚がったパン生地をつまみながら、衛がつぶやく。噛むほどにしつこくない油の旨味とカレーのスパイシーさが襲ってくる。
「これこれ、他のパン屋は具が少なくてねぇ」
ミユキも満足そうに頷いた。
「もう一個いい?」
ペロリとカレーパンを平らげた瑞葉が手を伸ばすのを衛がしかる。
「それは朝ご飯の分! デブになってもしらないぞ!」
その様子を見ながら、藍と翡翠はまた残念そうに呟いた。
「ああ、せめて明日の朝乗せて貰えるといいわね」
「そうだねぇ」
そんなあやかしの呟きなどものともせず、三人は元祖カレーパンを堪能した。
さて梅雨間の快晴の日曜日、衛はたまった洗濯物と格闘していた。
「ほれ、これ干しといて」
「はい、衛さん」
藍はそんな衛を手伝っている。そして翡翠は宿題をする瑞葉を興味深げに覗き込んでいた。
「あさごはんをたべる……あ、線が一本足らないんじゃない?」
「もう、翡翠くんはあっち行ってて!」
瑞葉はちゃちゃを入れてくる翡翠を邪険に振り払っている。
「もう干すとこないな、こりゃ……コインランドリーにでもいかなきゃか」
残った洗濯物を手に衛はコインランドリーに赴き、乾燥だけして戻って来ると来客があった。
「衛、どこ行ってたんだい」
「ちょっとそこのコインランドリーに。お客さんですか」
衛が居間を覗くと金髪のギターを持った若い男が座っていた。ミユキが客というからには人間じゃないんだろうが、あやかしってイメージじゃない。
「どうも、俺は鍋島。よろしく」
金髪の男が短く挨拶をした。人好きのする雰囲気の鍋島だったがその目は裸眼で緑色で、やはり人ではないのだと衛は確信した。
「こちらの鍋島さんは猫又でね、今年で生まれて五十年のベテランさんだ」
「はぁ……」
「いや、そんな固くならないで欲しい。めでたい事だからな」
「めでたい……?」
衛がいぶかしげにそう言うと、鍋島はにこにこと笑顔で答えた。
「いやあ、蓄えがある程度できてな。ここらで俺も所帯を持とうと思って」
「蓄え?」
「ええ、これで」
そう言って、鍋島はギターを手に取った。
「弾き語りってやつだ。昔は三味線で弾き語ってたんだが今時はこれだろう」
「へー」
「この鍋島さんがね、お見合いが成立したら十万円払うってさ」
ミユキがにまにましながら衛に耳打ちをした。単価十万円の仕事。こりゃ確かにおめでたい。
「それじゃあ、次の大安の日に」
「ミユキさん、あんたは腕利きのよろず屋と聞いた。頼みますよ」
そう言いながら、鍋島がくるりとバク転すると煙が上がりそこには金茶の縞模様の猫がいてギターは跡形も無く消えていた。猫はにゃーと一声鳴くと八幡様の方向に走り去って行った。
「さて、お嫁さんを探さないとね」
それを見届けて、ミユキはうきうきとしながら二階へと去っていった。
「そして、我々を頼ってこられたと……」
衛とミユキは白玉の両親、この一帯のボス猫とその妻に鍋島の見合い相手を頼んでいた。
「こちら、依頼料の鰹節です」
「これはかたじけない」
「それでどのような猫、いや猫又がご希望なので」
生真面目な様子で、黒猫がミユキに問いかけた。
「素直で健康であればよろしいとの事です」
「では我々に混じっている猫又にその旨伝えましょう」
猫の夫婦はそう言って、鰹節を抱えて去って行った。そして来たる大安の日、『たつ屋』にてお見合いの準備が進められていた。そわそわと待っている鍋島は不安そうに衛に聞いた。
「俺、どこか変じゃないだろうか」
「いいえ、雑誌から抜け出したようです」
「そらそうだ。雑誌を丸写しにして変化したんだもの」
あやかしとは便利だな、と衛は思った。それじゃあ被服費もいらないのかと。
「嫁さんを貰ったら、家を買って白い犬を飼うんだ」
これまた古風な家庭像である。しかし、実年齢は五十を超えるというのだからそれも仕方の無い事なのかもしれない。
「それじゃあ、お相手さんが来たのではじめましょうか」
鍋島の要望で、秘匿性の高い『たつ屋』の居間でお見合いは行われる。あやかし同士、多少くつろいでもここなら人の目も無い。この日の為に居候の付喪神、藍と翡翠は徹底した掃除をさせられていた。
「は、はい」
鍋島はミユキの声がけで、改めて正座をし直した。
「ではこちらが、サダさんです」
「どうも、鍋島と申します」
居間に通されたのはふわふわとした茶の髪色の女性……猫又である。
「よろしくお願いします」
「あの、こちら鰹節の出汁です」
衛がお茶……では無く出汁を二人に出した。
「それじゃああとはお二人で……」
そしてそそくさと居間から出て行った。――ように見せかけてドアの前で聞き耳を立てていた。
「どうだい、うまく行きそうかい?」
「しっ……今、はじまったばかりですよ」
ドアの所にはミユキに瑞葉、藍に翡翠まで勢揃いで事態を見守って……半分興味本位で待機していた。
「サダさんはお好きな食べ物はおありですか」
「鰹のなまりなんかは好きですね」
「ああ、あれは美味しいですね」
順調そうにお見合いは進んでいるようだ。茶猫の猫又のサダは鍋島に聞いた。
「鍋島さんはお住まいはどちらの方で」
「神奈川の山の方に住んでおります。いいですよ、自然が一杯で」
「まぁ、山。私はずっと人に飼われていたので街中でしか生活した事がありません」
鍋島はそれはもったいない、と言って山を駆け巡る楽しさと野の野鳥を捕るコツなんかをとうとうと語った。
「サダさんにも是非チャレンジしてみて欲しいな」
「それは楽しそう」
話はうまく弾んでいるようである。それを聞いてドアの外の一行は胸をなで下ろした。
「それで、うまくすれば家が一軒手に入りそうなんです。そこに一緒に住んでくれる方と所帯を持ちたいと思ってまして」
「まぁ、家を」
サダは驚いて声を上げた。山の中とはいえ、持ち家を持つ猫又などそういない。
「そこで、白い犬を飼うのが俺の夢なんです」
「……犬?」
鍋島が犬の話をしだした途端、場の空気が変わった。
「今、犬とおっしゃいました?」
「ええ、あいつらは単純だが気の良いやつらです。狩りの手伝いもしてくれますし」
「……犬だなんてとんでもない!! 私は猫ですよ!!」
サダは犬を飼うという提案を大声を出して否定した。
「私、小さい頃に吠えつかれてから犬が大嫌いなんですの……申し訳ないですけれど、この話は無かった事に……」
「ええっ……」
そして鍋島を一人残して立ち去ってしまった。途端、居間のドアが大きな音を立てて開かれる。
「ちょっと、犬なんかあきらめりゃいいじゃないか」
「さっきまで良い感じだったじゃないですか」
ミユキと衛に問い詰められて、鍋島はだらだらと冷や汗を流す。
「いや、その、犬を飼うのは俺の夢で……」
「ああ、また探し直しだ!」
衛は頭を抱えた。どうやら風向きはよろしくない方向に向かっているようである。
「ごめんなさい……やっぱり犬を飼うのは無理です……」
そして黒猫の猫又が立ち去った時、鍋島は地面を叩いた。
「どうして……みんな!」
「鍋島さん、犬を飼うのはどうしても譲れないですか」
崩れ落ちる鍋島に衛が気の毒そうに声をかける。
「大好きな歌の歌詞に出てきて……歌おうか」
「結構です」
「それにしても、どいつもこいつも勝手な事ばかり……」
そう、鍋島が玉砕したのは初日と今日だけではない。すでに五人の猫又にお断りをされていた。それでは、彼女たちの言い分を聞いてみよう。
三毛の猫又 さゆりさん
「都会暮らしが長くて、今更山で暮らそうと思えません」
アメリカンショートヘアの猫又 アリスさん
「男らしさをはき違えてる気がするわ。とにかく生理的に無理」
サビの猫又 小麦さん
「年老いた両親のそばを離れて生活したいと思いません、今回はご縁が無かったという事で」
キジ虎の猫又 ももさん
「やっぱり、犬と生活するのはおっかなくて……猫又になったからには面白楽しく暮らしたいですから」
鍋島の脳裏に浮かぶ数々の断り文句。鍋島は歯がゆくて頭を抱えた。
「思えばあっちは性格はキツそうだったし、こっちは毛並みが良くなかった……」
「ねー、やっぱり犬は諦めましょうよ。結婚生活には妥協も必要ですよ。これは既婚者からのアドバイスです」
「む? お前、伴侶がいるのか。一度も見た事がないが……」
「ああ、まあ……そう、出かけてるんですよ。出かけただけ……」
鍋島のシンプルな疑問が衛に突き刺さった。出かけただけであればどんなに良かったか。
「さて、困った。この辺りの猫又にはもう声をかけてしまった。西の方の猫又にも頼むかね」
ミユキも思案顔でお手製の猫又のリストを見ている。そこにボス猫夫婦がやってきた。
『西のボスに話を通すなら我らを介して貰おうか』
「ああ、もちろんさ。いい人を紹介してくれたら液状のおやつをつけてもいいよ」
『おお、噂のあれか……なるほど、承知した』
打ち合わせを続けるミユキとボス猫夫婦を横に、鍋島はふらりと立ち上がった。
「あっ、どこ行くんですか?」
「ちょっと散歩してくる……」
「じゃあ瑞葉も!」
衛と瑞葉は憔悴した鍋島の様子が気になって後を追った。歩きながら鍋島が呟く。
「なにがいけないんだろうな」
「だから犬じゃないですか?」
「本当に俺と一緒になりたかったら犬くらい我慢できるだろう」
「それもそうかも知れませんけど」
「逆に俺もどうしても一緒になりたい相手が居たら、犬くらい諦めるさ」
ということはピンと来た相手は居なかったという事だ。鍋島は人もまばらな不動尊の境内まで来ると、ため息をついて腰を下ろした。
「すまん、つい息苦しくなって……」
「いいえ、きっといい人が見つかりますよ、頑張りましょう」
「ファイトだよ、鍋さん」
瑞葉は鍋島の肩を慰めるように叩いた。
「なんだ、しけたつらをした男共だな」
そこに話しかけてきたのは、出世稲荷の使いの葉月である。
「あ、葉月さん」
『あー、よろず屋のおじさん』
「白玉ちゃん!」
瑞葉が嬉しそうな声をあげる。葉月の足下から姿を見せたのは白玉である。白玉は足腰もしっかりして少し小柄ではあるものの、もうほとんど成猫と変わらないくらいに成長していた。
「おー、白玉大きくなったな」
『こんにちは。そっちのおにいさんは』
「ああ、よろず屋のお客さんだよ」
『ってことはあやかしなのね』
白玉は鍋島があやかしと分かるととてとてと近づいて行った。
『なんだか近い匂いがするわ』
「ああ、俺は猫又だからな。名は鍋島という」
『へぇぇーっ』
すると、葉月が白玉を抱き上げてからかうように言った。
「そうだ、白玉の特技をこいつらに見て貰うといい」
『えーっ、まだ下手くそだよ?』
「私が手伝ってやるから」
『母様が一緒なら、白玉やってみる』
そうか、と葉月が返事をして白玉を撫でると白い煙が辺りに満ちた。
「どうですか、おかしくないですか?」
そこには白い着物に白い髪の十二歳くらいの少女がいた。こちらを見る青い瞳で白玉が変化したものと分かる。
「おお、すごいな。猫又でもないのに」
「白玉ちゃん、すごい!」
『母様と練習しました!』
「ふふ、どうだ。稲荷の加護で変化の術まで覚えたのだ。さすが我が娘」
葉月は衛と瑞葉と鍋島に鼻高々に自分の養い子を自慢した。葉月はただ単純に白玉の成長を見せびらかしたかっただけなのだが、それで終わらない男が一人いた。
「……かわいい」
「本当ですかー。よかった」
鍋島は惚けたように、白玉に向かって呟いた。褒められた白玉は単純に嬉しそうである。
「すごいかわいい。え、いくつ」
「まだ、8ヶ月です」
衛はおいおいと鍋島に心の中で突っ込んだ。それではまるでナンパである。そして実年齢はともかく、鍋島の見た目は金髪の若い男であり、白玉は中学生くらいにしか見えない。
「まだ変化がうまく無くて、髪が白いままなの。これだと街中は歩けないって母様が」
「ああ、毛色を隠すのは大変だものな。俺は普段からこのままだ」
「へぇ、キレイな金色……」
白玉が鍋島の髪を撫でる。お返しに、とでも言うように鍋島も白玉の髪をなでる。この絵面はちょっとやばいんじゃないの、と衛が思った瞬間けたたましいベルが皆の耳を襲った。
「なっなんだ!?」
「ロリコンがいたら-! これ鳴らせってー! パパがー!」
騒音の元凶は瑞葉の防犯ブザーだった。
「わかった、わかったから音をとめよ?」
衛はとりあえずうるさくてたまらないので瑞葉の防犯ブザーの音を止めた。そんな二人を鍋島と白玉がきょとんと見ている。一方白玉の保護者の葉月はどうしているかというと。
「ははは、鍋島殿。白玉が気に入ったか」
そう言って、腹を抱えて笑っている。
「笑っている場合ですか……!」
「ふふん。まぁ白玉は美しい子だからな。目を奪われるのも当然だ」
「母様、ちょっと」
白玉が恥ずかしそうに葉月の袖を引いた。そんな葉月に鍋島は問いかけた。
「そこな狐様が白玉の母御かい」
「そうだぞ、いかにも私が白玉の養い親だ」
「白玉を妻に迎えたいがどうか」
その時、白玉が息を飲むのが聞こえた。頬を抑えた顔は真っ赤である。
「めんどくさいお姑様がついとるぞ」
「かまわん」
「私は白玉を遠くへ手放す気はないぞ」
「一向にかまわん」
「ふーむ?」
衛は子供相手にふざけているのか、と思ったが鍋島の様子は至って真面目である。そして葉月もだんだんとその本気であることが分かったのだろう。からかうような口調はやがて真剣なものに変わっていった。
「のう、鍋島。白玉は見ての通りまだ子供だ。おぬし、他のおなごにうつつを抜かさずまてるか」
「無論、待てる」
「そうか、では白玉が猫又になった頃、また来るがいい」
葉月は鍋島にそう条件をつけた。鍋島はその言葉に力強く頷いた。
「衛さん、俺は一度『たつ屋』に戻る。ミユキ殿に謝らなくては」
「えっ、あ……はい」
鍋島はそう言い残すと、来た道を駆けていった。
「……いいんですか、あんな事言って。猫又になるのに二十年もかかるんでしょ」
「そうさの、白玉は稲荷の加護があるからもう少し早いと思うがな」
「……意地悪ですね」
衛が責めるようにそう言うと、葉月は首をすくめて言った。
「まあ子供の恋路を邪魔するような無粋はしたくないのでねぇ」
「……はぁ? 白玉があの猫又に恋してるとでも??」
衛が驚いて、白玉を見ると白玉は顔を真っ赤にして頷いた。それを見ながら葉月はこう付け加えた。
「知っておるか。猫は雌が恋をしてはじめて雄が恋をするのだぞ」
いたずらっ子のように笑った葉月が姿を消した後、衛と瑞葉はその場に取り残された。
「ねー、つまりどういう事?」
瑞葉がポカンとした顔で聞いてきた。衛はどう答えたものか、と思案して瑞葉にも分かりやすいように説明する。
「白玉は鍋島さんのお嫁さんになる約束をしたという事かな?」
「えー、白玉はまだ子供だよ?」
「大きくなったらって事だよ」
「そうかー。じゃあ蓮くんと瑞葉も結婚しよーっと」
瑞葉は納得してくれたのはいいが、聞き捨てならない台詞を吐いた。思わず声を上げそうになるのをぐっと堪えた。ここで変な事を言ったら瑞葉との信頼関係が崩れかねない。
「瑞葉、結婚は大人にならないと出来ないから瑞葉も大人になるまで待とうな」
「うん、わかったー」
衛は蓮君がどんな男の子なのか聞きたいのを我慢しながら、家路へと着いた。
「おかえり、お二人さん」
家に帰ると、ミユキが不機嫌そうに出迎えてくれた。
「ミユキさん……怒ってます……?」
恐る恐る、衛がお伺いを立てると、ミユキは噛みつくように返答した。
「怒ってないよ! まぁ事故みたいなもんだしね。それに一応鍋島も金は払うって言ってるんだし」
「それじゃあ……」
「ただね! 成婚の後に支払うって……それじゃ、あたしゃ生きてるかどうかも分からないじゃないか……!!」
単価十万円の仕事は支払いが随分先になるみたいだ。ピリピリしたオーラを放つミユキから逃れて、『たつ屋』の店頭に衛は逃げ出した。
「にゃー」
「お?」
『どうも、こんにちは』
そこに居たのは白玉の実の母猫だった。
『白玉の嫁入り先が決まったとか』
「あ……はい」
『子供の大きくなるのは早いですね……思えば私が一番最初の子を孕んだのも丁度一歳の頃でした』
「寂しいですか?」
『いえ、白玉はもう私の手を離れていますし』
そう言いながらも白猫は寂しそうだ。
「白玉の結婚式には呼びますよ」
『まぁ……そしたら長生きしないと……猫又になってしまうわね』
衛の言葉にふふふ、と笑って白猫は立ち去っていった。
「お嫁にかぁ……」
いつまでもお嫁に行かないのも困るけれど、そんな日が来たら衛は泣いてしまうだろう。きっと穂乃香がそれを見て笑うだろうな、と衛は考えて。隣に今はいない妻の事を思い返していた。
――翌日、いつものように朝食の準備をしていた衛だったが、瑞葉がなかなか階下に降りてこないので様子を見に行った。
「瑞葉―、もうご飯できるよー」
「ううーん」
瑞葉は布団を被ったまま答えた。
「どうした……わ、お前熱くないか?」
「ふう……」
抱き上げた瑞葉の身体はほかほかと温かかった。衛が体温計を当てて測ると、38度の熱が出ていた。
「ありゃ~、こりゃ学校は休みだな。パパ、連絡しておくからな」
「うん……」
苦しげに瑞穂は頷いた。衛が電話をしようとしていると、ミユキが様子を聞いてきた。
「瑞葉はどうしたんだい?」
「熱があるみたいで、学校は休ませます」
「そうかい。気温差でやられたかね、それともあやかしの気に当てられたか」
「怖い事言わないで下さいよ。あとで病院に連れて行きます」
さっと朝食をすませて、瑞葉を小児科に連れて行くとただの風邪だろうという事だった。
「たっぷり水分とって、早く元気になろうな」
ぐったりとしている瑞葉をおんぶしながら、衛はそうはげました。
「じゃあパパ、店開くからな。大人しく寝ているんだぞ」
「はーい……」
衛は瑞葉を寝かせると、店のシャッターを開けた。そして仕込んでいたコロッケを揚げる。
「いい色ですね。衛さん」
「藍」
決して美味しそう、と言わない所が付喪神らしい。
「瑞葉ちゃん、熱を出したとか……私には分からない感覚ですけどきっと辛いのでしょうね」
「まあね、でも子供なんてすぐ熱を出すもんだ」
「そうなんですか」
「ああ、もっと小さい時はしょっちゅう熱を出してたよ」
衛は瑞葉がまだ保育園だった頃を思い出していた。遊園地に行く日に熱を出して大泣きした事もあったっけ……。
「へえ……一応、翡翠が様子を見てますから安心して下さいね」
「そりゃ助かるよ」
「それじゃ、私はお掃除してきますから」
そう言って藍は去って行った。衛は油から黄金色に色づいたコロッケを上げた。付喪神達は居候ながら自分の出来る家事を率先してやってくれている。
「家の中に家政婦と保育士がいるようなもんか……贅沢だな」
普通に考えれば暮らしやすい毎日なのだが、衛はどうしても穂乃香がここに居ないのがひっかかる。穂乃香がいなければ、やはり本当の幸せとは言えないのだ。
「わぁ!?」
衛が揚げ物を店頭に並べ終わった時、翡翠の慌てた声が二階から聞こえた。
「翡翠―? どうした!?」
「お、お化けが……」
自分もお化けみたいなものなのに、と衛が少し呆れながら二階に上がると腰を抜かした翡翠と眠る瑞葉が居た。
「なにもいないじゃないか」
「いや、そこから手が出てきて……」
翡翠は壁を指さして、腰を抜かしている。するとふっと瑞葉が目を覚ました。
「りんご……」
「りんご? これか?」
瑞葉の頭の上にはりんごが転がっていた。
「ああ……良かった……これ、ママがくれたの。パパ剥いてきて?」
「あ、ああ……」
衛はそのリンゴを受け取って、台所で剥いてすり下ろしてやった。
「母もね、熱が出た時こうしてくれたわ」
いつだったか、瑞葉が熱を出した夜に穂乃香がそういいながらりんごをすっていたのを衛は思い出した。
「まさか、な」
衛は一階に居たし、もし穂乃香が来たのなら気が付かない訳がない。もし、翡翠の言うようにお化けで出たとしても……そこまで考えて衛は首を振った。もしお化けならなぜ真っ先に自分に会いに来て来てくれないのか。
「ほれ、すりりんご」
「わー、パパありがとう」
瑞葉は喜んでりんごを食べて眠った。そして目を覚ました時には嘘のように熱が引いていた。
「明日は学校いけるね!」
「ああ。ところであのりんごどこから持って来たんだ?」
「え? えーと、お仏壇の所にあったんじゃないかな」
瑞葉は自分が熱の時に言ったうわごとには気づいていなかった。衛はもしかしたらやっぱり衛には分からない方法で、穂乃香がりんごを持って来たんじゃないのかと考えた。
「穂乃香は帰ってくるんですかね」
「ああ? なんだいいきなり」
その日の夜、風呂上がりにふと衛は晩酌をしているミユキに聞いてみた。
「一本貰いますよ」
衛は珍しく飲みたい気持ちになって、冷蔵庫から発泡酒をちょうだいした。
「ミユキさんは……穂乃香の居場所を本当に知らないんですか」
「それを聞いてどうするんだい。私は知らないよ。最初に言っただろ」
珍しく、ミユキの歯切れは悪い。いつもならはねつけるように返されて終わりなのに。衛は少しだけ抵抗してみる事にした。
「……知っているんですか」
「……しつこいね」
「どうして穂乃香は帰ってこないのでしょう」
「さあねぇ、帰れない理由があるんだろ」
衛はそこまで聞いて、発泡酒を一口飲んだ。
「では、いつかは帰ってくるんですね」
ミユキは衛のその確信めいた口ぶりにしまった、という顔をした。ミユキは明らかになにかを知っている。けれどそれを衛に伝える気はないようだ。しかし、ミユキの口ぶりから確実にいつか帰る、という確信が持てた。
「余計な事言うんじゃ無いよ」
「はいはい」
それだけで、これから彼女の帰りを待つ気力が沸いてきた。
「えっ、近くって門前仲町? ああ、うん」
翌日、突然かかってきた電話に衛は驚いていた。
「近くだけど、こっちも店が……ああ、うん」
電話の相手はかつてのイタリアンの店の同僚、佐伯だ。突然、近くに寄ったからと連絡を寄越してきたのだ。衛はポリポリと頬を掻くと、藍を呼んだ。
「すまないけど一時間ばかり店番をお願い出来ないか?」
「ええ、構いませんけど。お買い物ですか?」
「いや、知り合いが近くに来たので飯がてら話をしてくる」
衛は藍に店番を任せて駅に向かった。
「おおーい、久し振り」
「佐伯、またずいぶん久し振りだな」
「やあ、奥さん見つかったか?」
色黒でがっしりした体型の佐伯は、見た目通りの体育会系でさっぱりした性格ながら無神経な所がある。
「いいや、まだだ」
「その口ぶりだと、諦めてないみたいだな」
「ああ」
昨晩ミユキと話していなかったら、佐伯と会う気にはならなかったかもしれない。こうなる事は半分分かっていたから。
「あー、腹減った。氷川、飯まだだろ」
「うん。どっかでうどんかなんかどうだ」
「うどんかー、せっかくはるばる来たんだし名物でも食べたいんだが」
「そんな、名物なんて……」
そこまで言って、はたと衛は思い出した。そういえそんなものがあったような。
「ああ、深川飯だ」
「深川飯?」
「うん、俺も食べた事ないんだがな、ほらそこの八幡様の所に」
衛が指さした先には『深川宿』という看板があった。深川めしというのぼりも。
「あそこでいいか?」
「ああ」
二人でのれんをくぐると、落ち着いた和風の店内が迎えてくれた。
「どうしようか」
佐伯がメニューを広げて迷っている。というのも深川飯には炊き込みご飯タイプのと本来の形であるぶっかけ飯のタイプがあるからだ。
「俺も食べるの初めてだし、この『辰巳好み』ってセットにしよう」
「おおそうだな」
二人でセットを注文して、お茶をすする。
「どうして急に訪ねてきたりしたんだ?」
「うーん、どうにかしてお前に戻ってきて貰えないかと思ってな」
「……」
「実は店が傾きかけてるんだ。俺一人ならどうにでもなるが……オーナーの顔を見てたらなんとも……」
衛は考えた。家事は食事以外付喪神がやってくれるし、ミユキもいる。川崎の店まで通いで働く事も不可能ではないのだが……。
「ごめん、まだ穂乃香も見つかってないし、子供をほおっては置けないよ」
「そうか、いやそんな気はしたんだ。さ、食おう」
供された、『辰巳セット』はあさりの炊き込みご飯の浜松風、それからあさりの味噌汁をかけたぶっかけの二種のセットだ。
「ほっ、このあさり国産だな。身が厚い」
ぷりぷりのあさりの炊き込みご飯は貝の旨味がご飯に染み渡っていて上品な味わいだった。ぶっかけの方は味噌の味の染みたあさりとネギの香りともに啜るワイルドな味だ。
「ふうー」
デザートのくずきりも頂いて、二人は満足げに口を拭った。
「どうだ、ちょっとうち寄らないか。コーヒーくらい出すよ」
「ああ」
衛は佐伯を連れて、『たつ屋』へと向かった。
「衛さん、お帰りなさい」
「はい、ただいま」
衛の姿を見つけて、藍が声をかけた。佐伯は衛と藍を見比べて、焦った声を出した。
「氷川、あの子はなんだっ」
「え? 店番だけど……」
「すんごいカワイイじゃないか。お前まさか……」
「え、あ、まぁ親戚みたいなもので……」
人型の藍が他人にどう見えるかを忘れていた衛はそんな事を言いながら適当にごまかした。実態が皿であるのを知っていると忘れがちである。
「さあ、コーヒー」
衛はまだ訝しげな顔をしている佐伯にコーヒーを出した。
「ああ、ありがとう」
その時、佐伯の肩に何かが乗っているのを衛は見つけた。
「佐伯、虫が付いてる」
衛がそれを払おうと手を挙げると、とんでもない大音量のしわがれた声が聞こえた。
『やめんかーーーー』
「!?!?」
衛がびくっとして手を止めた。佐伯は何があったのか分からない様子できょとんとしている。
『まったく最近の人間は礼儀がなっとらん!』
衛が佐伯の肩に乗っている小さなものを目をこらして見ると、小さな青ざめたやせっぽちの老人であった。衛はそれこそ虫を捕まえるかのようにしてそれをつまむと、台所のコップを伏せて閉じ込めた。
「虫、とれたか?」
「ああ」
佐伯はコーヒーを飲み終わると、気が変わったら連絡してくれと言い残して去って行った。
「ミユキさーん!」
衛は佐伯の姿が見えなくなると、弾丸のようにミユキを探した。
「なんだい」
二階で内職をしていたミユキは老眼鏡をくいと上げてめんどくさそうに衛を見た。
「なんか変な物を捕まえました!」
衛にせかされて、階下に降りたミユキはコップの中の老人を見てこう衛に言った。
「これは貧乏神だね」
「……貧乏……」
「せっかくなら福の神を拾ってくればいいのに」
「ええーっ、どうしましょう」
衛は貧乏神に祟られないかそわそわしだした。別に裕福でもないのに、こんなものを拾ってしまうなんてとことんついていない男である。
「貧乏神も神様だ、ちゃんとお祀りすればいいんだよ」
ミユキは別段慌てる風でもなく、ご飯と味噌を焼いて折敷に並べると小さな貧乏神を乗せた。
『やあやあ、ここの女主人は気が利くのう』
小さな老人はそれをぱくぱくと平らげると、ではと言って裏口から去って行った。
「な、簡単だろ」
「ミユキさん……ありがとうございます……」
尊敬のまなざしでミユキを見る衛。ミユキは居心地悪そうにこう付け加えた。
「まぁ、うちにも貧乏神がついているからね」
「え?」
「あたしの部屋の押し入れにでっかいのがいるよ。だから『たつ屋』は繁盛しないのさ」
なんと、衛の経営努力をミユキは鼻で笑う訳である。
「なんで追い出さないんですか?」
「貧乏神がいると、貧乏以外の厄災が近寄らないからねぇ……売れない総菜屋でもやってりゃそっちに取憑くし、害もないからね」
どこに貧乏神を警備員代わりにする者がいるだろう。ははは、と笑うミユキを衛は初めて恐ろしいと思った。
今日も今日とてヒマな『たつ屋』。貧乏神が憑いているとしってすっかりやる気を無くした衛が抜け殻のようになって店番をしていた。
「衛、衛」
そんな衛にミユキが声をかけた。
「久々にまともなお客さんだよ」
「ああ、あやかしの方ですか」
衛はもううんざり、という声を出した。あやかしのお客の方に貧乏神が憑けばいいのに、と独りごちる。
「とっととお茶を淹れておいで!」
「はいはい」
しびれを切らしたミユキの怒鳴り声でようやく衛は腰を上げた。
「どうぞ、粗茶ですが」
「これはどうも」
衛がお茶を出したのは瑞葉よりも小さな幼女である。しかも今時、七五三でもないのに着物姿である。
「ああ、美味しい」
にっこりと微笑む幼女に思わず衛の頬も緩むが、衛はもう驚かないぞ、と心に決めている。この幼女もどうせ見た目どおりの年齢なんかじゃないのだ。
「こちらは鞠さん、座敷童だよ」
「どうも、鞠と言います」
「座敷童……って福を呼び寄せるっていうあの?」
「はい、そうです」
鞠と呼ばれた幼女はこくりと頷いた。ミユキがやや興奮気味に話を続ける。
「この辺は震災に大空襲もあったから、古い建物はあまり無いんだけどね。ほら、大通りの裏に深川モダン館ってのがあるんだけど、そこの建物に憑いたのがこの座敷童さ」
「そんなのありましたっけ」
「あるんだよ。それでこの鞠さんがずっと待ち人を探してるって言っててさ」
「へぇ、誰を待っているんです?」
衛がそう聞くと、鞠はゴムボールを取りだした。もう空気もとっくに抜けてボロボロのボールだ。
「ここに、お名前があるの」
「6-3 三井……英子……?」
「この子にこの鞠を借りたままなので返したいの」
ボールは相当古いものに見える。三井英子が子どもだとしても、もう大人になっているんじゃないだろうか。これは難しそうだぞ、衛は眉間に皺を寄せた。だが、次のミユキの言葉を聞いて思い直した。
「そのお礼として、『たつ屋』を一日だけ繁盛させてくれるってさ」
「な……なんと……」
衛は思わず人で賑わう『たつ屋』の姿を妄想した。もしそんな事が出来るなら、今考え中の新メニューも出そう……。
「あ、あのー……大丈夫でしょうか」
「ああ……ところでそのボールは何年くらい持っているんでしょう」
「うーん、二十年から三十年でしょうか。ごめんなさい、はっきりしなくて」
申し訳なさそうに鞠は頭を下げた。
「あやかしは時の流れがあいまいみたいだからね、しかたないよ」
ミユキの言う通り、長い時を生きているとそんなものなのかもしれない。衛は一応納得したが、さあどうしたもんかと考え込んだ。
「わあ、お客さん?」
衛が考え込んでいると、瑞葉が学校から帰ってきた。
「私、瑞葉!」
「私は鞠です」
「一緒に遊ぼ!! ゲームしよ!」
瑞葉は初対面のあやかしを前にしても臆さず遊びに誘った。
「もうねー、翡翠くんはゲームへったクソで瑞葉の相手にならないの」
「私も初めてですが」
「誰でも最初は初めてだよー」
瑞葉は鞠の手を強引にとって、絶対に逃がさない構えだ。その様子を見ていた衛はふと閃いた。
「そうだ、学校だ」
「どうしたの、パパ」
素っ頓狂な声を突然出した衛に、瑞葉は驚いてよろけた。
「この辺の子供だったら数矢小学校に通っているだろ?」
「うん」
「瑞葉、二十年から三十年前の卒業文集を見て三井英子ちゃんを探すんだ」
「えー、どこを探すの?」
「図書館とかじゃないかな」
衛は瑞葉の肩をがっしりと掴んで言った。
「頼む、瑞葉お前が頼りだ」
「うーん、分かった。その代わりおやつにコロッケ!」
太るからって最近禁止してたからな。たまにはいいか、と衛はコロッケを鞠の分と二つ、皿に盛って渡してやった。
「それでは瑞葉隊員! 検討を祈る!」
「らーじゃー!」
瑞葉は衛のかけ声に元気に返事を返した。
「……で、どうだった」
翌日、衛は帰ってきた瑞葉にさっそく守備を聞いた。
「図書館には卒業文集無かった」
「そうか……」
「でもね、梨花ちゃんが校長室にならあるかもって」
梨花とは瑞葉の友人のトイレの花子さんだ。
「昼間は校長先生いるから夜に行こうって梨花ちゃんが」
「夜の学校!?」
「警備とかは梨花ちゃんがなんとかしてくれるって。それで……パパ」
「なんだ?」
「夜の学校怖いから……一緒に来て?」
普段あやかしに囲まれているのに夜の学校が怖いとは。瑞葉もやっぱり子供だな、と衛はちょっと安心した。
「いいよ、一緒に行こう」
そしてその夜、瑞葉と衛はこそこそと学校の校門に向かった。
「梨花ちゃ~ん」
「はいはい」
か細い声で瑞葉が梨花を呼ぶと、いつの間にか梨花は後ろに立っていた。
「ひゃっ」
情けない声を出したのは衛である。瑞葉はじっとりした目で父の姿を見つめた。
「パパ、ボディガードなんだからしっかりしてよ」
「すまん……」
こうして、大人一人と子供と厠神という夜の学校見学がはじまった。
「本当に警備は大丈夫なのか?」
「ええ、センサーに私達は反応しないようになってますけど、あまり私から離れないで下さい」
一行は校長室へと向かった。案の定、鍵が閉まっている。
「ちょっと待って下さい」
梨花がドアノブに触れるとカチャリと音がした。そうして難なく衛達は校長室への侵入を果たした。
「この棚かな……」
ガラスの戸棚の一角がどうも怪しい。これも鍵がかかっていたので梨花が外した。
「今から三十年くらい前はここからここ。この中から六年三組の三井さんを探すんだ」
そこからは地道な捜索作業だった。一つ一つ、中身を確かめてチェックする。
「あっ、パパこの子じゃない?」
瑞葉が声を上げる。衛が見ると、確かに六年三組に三井という生徒が居る。個人情報ががばがばだった頃の卒業文集だ。衛の狙い通り、連絡先が一覧で載っていた。
「24年前の卒業文集か、これはいけるな」
衛は六年三組の連絡先を携帯で撮影した。
「さ、長居は無用だ。撤収するぞ」
必要な情報を得ると、衛達はそそくさと学校を出た。
そしてその翌日。衛は三井英子の連絡先に電話をしてみる。
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません……」
「駄目か……」
三井英子の連絡先はもう不通になっていた。これだけ時間が経っていればそれも仕方ないのかもしれない。
「では次の手段!」
衛は次は実名を前提としたSNSから三井英子を探す事にした。とりあえず、数矢小学校のコミュニティを探したが、不発だった。
なので衛はアカウントを一つ作ると、見つけた三井英子の同級生に向けてこうメッセージを送った。
【久しぶりに同窓会でもしませんか。連絡の取れる方に呼び掛けてください】
衛の騙った名前はクラスで中心的だった人物だった。ちなみに本物はどうもカリフォルニアにいるようだ。
「ふう……これでひっかかってくれるといいんだけど」
それから数日。同窓会の呼びかけはあちこちに広がっていた。そこに出てきたのが『宍倉英子』という人物だ。
【英子―ひさしぶりー】
【あれ、三井か】
【そそー、結婚して今は宍倉だよー】
そうか結婚で名字が変わったのか。とにかく、三井英子は同窓会に出席する事になった。人数が大体固まった所で適当なレストランに予約を入れる。そして開催の流れの中でさりげなく当日の幹事を別な人物に任せる。
「よし、これで当日顔を出せば三井英子に会える」
衛は、そこまで守備を整えてミユキに報告した。ミ
「SNS……今の若い人はそういう所で繋がってるんだね。とにかくでかしたよ」
「とにかく週末、鞠さんを連れて行ってみますよ」
そして来たる週末、衛は鞠をつれて同窓会が開かれるレストランの近くに待機していた。
「見て分かるかしら?」
「どうだろう、向こうは大人になってるからな」
「……どきどきしてきた」
そして、同窓会が始まった。衛は歓談がはじまった頃合いにするりと中に侵入する。そして三井英子を探した。
「英子―!」
ほかの女性がそう呼んだ人物を良く見ると、顎のほくろが一致した。そして……英子は車いすだった。
「三井……さん?」
「はい? ええと……?」
三井英子の目が戸惑いの色を帯びる。
「ちょっといいですか、渡すものがあるんです」
「え、なんですか」
三井英子は警戒心をあらわにした。しまったちょっと強引過ぎたか。衛はあわてて鞠を呼んだ。
「鞠さん、おいで」
呼ばれた鞠が英子の前に立つ。鞠は緊張で震えながら、ボールを差し出した。
「英子ちゃん、これ返すね」
「なにこれ?」
ボロボロのボールを英子は恐る恐るつまんだ。そこに自分の名前が書いてあるのを見つけて驚きの目で鞠を見つめる。
「これ、私のだ。どうして……」
「……」
その問いに鞠は少し寂しそうに微笑んで、衛の元に戻ってきた。
「もういいのか」
「うん、英子ちゃんは私の事もう覚えていないみたい」
もう行こう、と鞠は衛の手を引いた。二人がその場を去ろうとすると英子が後ろから車いすで追いかけてきた。
「も、もしかして鞠ちゃん!?」
「……うん、私の事分かるの?」
英子は戸惑いながらも頷いた。
「信じられない……だって二十年以上前だよ? なんであの時のままなの」
「私、人間じゃないの。ごめんね言わなくて」
「ううん、私が変っちゃったから」
英子は鞠の存在を認めると、さめざめと泣き始めた。
「あの頃はボール遊びばかりしていたのにね……今はこんなになっちゃって」
「あの……その足の事聞いてもいいですか」
「これは、一年前に交通事故で……」
それを聞いた鞠は英子の手をぎゅっと握った。
「英子ちゃん、あの時は沢山遊んでくれてありがとう。そのお礼を今させてね」
「え……」
鞠はそう言ってスタスタと去って行った。
「ちょっと待って……え!?」
追いかけようとした英子が車いすから立った。すぐに力尽きて車いすに倒れ込んだが、確かに立ち上がった。
「嘘……」
「よっぽど貴女の事が好きだったんですね、鞠さんは」
「あなたは一体?」
「ただの付き添いです。信じるかどうかは貴女次第ですが、彼女は座敷わらしです。関わる者を幸福に導く存在……だったけな」
「座敷童……まさか……」
ぽかんとしている英子を残して衛もその場を去った。そして心の中でガッツポーズをしていた。よっし、ミッションコンプリート!
「何を店に出そうかなー」
衛は一日限定の繁盛の日のメニューをすでにあれこれと考えていた。
たった一度の『たつ屋』の繁忙期はミユキも笑顔で店番をしてくれた。中でも衛考案のあさり入り深川コロッケが30ヶとイタリアントマトコロッケが20ヶも売れた事で衛のプライドも守られた。
さて、そんな事もあった週末。衛と瑞葉は映画を見に錦糸町まで来ていた。瑞葉の見たい映画の吹き替え版がこちらでしかやっていなかったのだ。
「あー、面白かった」
瑞葉は映画のグッズのキーホルダーも買ってもらいご機嫌である。子供向けの映画だったが衛もなかなか楽しめた。
「さて、帰るか」
衛と瑞葉がバス停に向かおうとしていると、そこにびゅうと強い風が吹いた。二人は思わず立ち上がった埃に目をつむる。
『おいてけぇ……おいてけぇ……』
「ん、なんだ?」
衛が気のせいかと思って瑞葉の手を引いて先に進もうとすると、また声がした。
『おいてけ……』
「何をだよ!」
また妙なあやかしが出たものだ、と衛はその声のする方に向かって叫んだ。
『……娘』
「は?」
『……娘をおいてけ』
衛は耳を疑った。瑞葉をぎゅっと抱いたまま、声と風のする方にじっと目をこらすと若い男が立っているのが見えた。
「置いて行く訳ないだろう!」
「ですよねー」
衛が噛みつくようにその男を怒鳴りつけると、若い男は急に態度を崩してへらへらと笑った。
「知ってます? 本所七不思議の置いてけ堀」
「知らん!」
「この近くにあった池に魚がいっぱいいたんですけど、釣って帰ろうとすると『おいてけー』ってお化けが出るんですよ」
「それがどうしたんだ」
衛はこの場からどうやって逃れようかと考えた。瑞葉も怯えたように衛にしがみついている。
「すまないが、世間話している時間はないので失礼」
そう言い残して衛は近くを通ったタクシーを捕まえた。とっととこの気味の悪い男から離れてしまいたい。
「それでは、ここらでさよならですかね。私の名前は神室、覚えておいて下さい」
タクシーのドアがしまりがてら、男はそう名乗った。
「なんだったんだ、一体……」
衛と瑞葉は家に帰るとさっそくミユキに先程の事を相談した。
「神室、と名乗ったんだね」
「はい」
ミユキは難しい顔をして、顎に手を当てたまま考えこんだ。
「そいつは『人魚』だ」
「人魚? ちゃんと足がありましたよ」
「人魚ってお姫様の?」
「正確には人魚の肉を食べた人間さ。不老不死とも言われている」
「なんでそんなのが俺達の前に現れるんです?」
あれは明かに敵意だった。よろず屋に用があって来たようには思えない。
「あれはかつてあたしが退治した人魚さ」
「退治? 人魚って悪い事でもするんですか」
「あいつは人の生き血を抜いてすすっていたのさ」
「ひえっ」
衛も瑞葉もそれを聞いて震え上がった。さっきまで息がかかるくらいの距離にいたのがそんな人物だったなんて。
「でもなんでそんな事を……」
「さあ、なんでも体中の血をそっくり入れ替えれば人間に戻れるとか言ってたね……だからあたしは返り討ちであいつの生き血を全部抜いて木乃伊にしてやったんだ」
「ひえええ、ミユキさん怖い」
恐ろしい人魚の実態、そしてもっと恐ろしいミユキの返り討ち。瑞葉は悲鳴を上げた。
「本所の寺に預けといたんだけど、そこから逃げ出して来たのかね」
「ミユキさんがそんな事するから、仕返しにきたんじゃないんですか!?」
「そうかねー」
「そうですよ、瑞葉を狙って来たんですよ!?」
ミユキは仕方ない、と言いながら立ち上がり戸棚を漁った。
「これを身につけておきな」
「これは?」
ミユキが手渡したのは龍の彫刻を施した木の札だった。
「龍神のお守りだよ。念の為、首から提げておくといい」
「……あ、ありがとうございます」
衛はお守りを受け取ると、瑞葉にも手渡した。
「あのお兄さん、なんかやな感じだった」
瑞葉はそうつぶやきながらお守りを首に掛けた。
「とにかく、数日のうちは用心しておきな」
ミユキのその言葉を衛と瑞葉は肝に銘じた。
「それでそんなシケた顔をしているのか」
死んだ顔で店番をする衛をおちょくっているのは出世稲荷の使い葉月である。
『母様、白玉が浚われたらそんな顔していられる?』
「それもそうだの、いや衛すまんかった」
「いいんですよー」
「しかし、瑞葉が学校の間ずっとこれでは困ったものだ」
「学校まではついていけませんから……あと、学校は梨花ちゃんっていうお友達がついてるから大丈夫だろうと思うんですが……」
衛はそこまで言うとため息を吐いた。怖いのは学校の行き帰りのちょっとした時間に、あの神室が瑞葉の前に現れる事だ。どうせヒマだしついて回りたい所だが、保護者がびったりついているのも目立ちすぎる。
『母様、白玉はお手伝いしようと思います』
「お?」
『瑞葉ちゃんの学校の行き帰りには白玉が付き添いましょう』
白玉は青い眼をくりくりさせてそう言った。衛はなるほど猫なら小学生と一緒にいても変では無い、と考えた。
「白玉、ありがとう……なにかお礼を、あっ」
衛は二階に上がると穂乃香のブルーのシュシュを持って来た。
「これ良かったら首輪に、あっあとこのレバカツも持って行って」
「まあおじさんありがとう」
「白玉のお仕事デビューだの」
ささやかな謝礼を白玉に持たせて、衛は二人に頭を下げた。穂乃香の失踪に続き、瑞葉まで失っては衛は生きるよすががない。もしもの時の保険はいくらでもかけたいと衛は思った。