「恭太君っておとなしい人ですね」薫子はベッドに座り、脚を上げながら言った。「色々いい案思いついてるのに、もったいないです」

「頭が悪いだけだよ」僕は苦笑しながら布団を敷いた。その上にあぐらをかく。

「恭太君が頭の悪い人には見えないんですよねえ」

「そう? 頭が悪いから、伝えたいこともまともにまとまらないんだよ」

「ああ……。でもわたしもまとまってはいないですよ。だから長ったらしくなるんです。そう、わたしあれなんですよ、ちょっと喋りに勢いが付くと、話がなげえって言われるんです」

「へえ。関係はないけど、僕は話す人好きだよ。自分が話すの苦手だからかな」

「なんか改めて、恭太君って優しいですね。なんか、女……なのかな、ちょっとこう言ってほしいなっていうのがあってなにか言うことってあるんですけど、そういうときって必ず言ってほしいこと言ってくれるんですよ」

「へえ。そんな色々考えながら話してたらわけわからなくならない? 言ってほしい言葉があって、なるべく相手がそう言うような言い方も探すわけでしょ?」

「まあ、さすがにそんな一つ一つしっかりは考えないですけどね。例えば、そんなことないよって言ってほしくて、最近ちょっと太っちゃってえ――とか言いません? 女の人だけなのかなあ」

「ああ……。僕そういうの苦手かもしれない。相手が最近太ったって言ってても、そんなことないよとは出ない気がする」

「えっ、なんて返すんですか? ああ確かに太ったねって?」

いやまさか、と僕は苦笑した。「そんなに気にならないよとか、本当にそう思えばそれくらいがいいんじゃない――みたいな」

薫子は小さく苦笑した。遠くで抱えていた脚を解いてベッドに倒れる。「さあ、寝ましょう寝ましょう。明日もお店は開きますよ」

「ちょっと待って、これ相手怒らせる?」

「はあい、寝ますよ」

「えっ、本当にまずい? この返し」

「うるさいですよ、そんな綺麗な男の人にそんな優しい声でそんなこと言われたら、殆どの女の人心臓もちませんよ」

どきりとすると同時に顔が熱くなるのを感じた。「よし寝よう」

僕は照明を常夜燈にして横になった。

「ねえ、なんでそんなに慣れてないんですか? 自覚ないんですか?」

「はいはい、寝るよ」

「本当になんでですか。言われたことないんですか?」

「言われたことのある奴の反応に見えるかい?」

「なんで言われないんですか」

「さあさあ、寝るよ」

もう、と薫子は笑った。「おやすみなさい」と拗ねたように言う彼女へ「おやすみ」と返す。