男は弱虫で泣き虫で、人一倍、さびしさに弱い人間だった。
だから男は、家族と俺と、千鶴とスグルと。それ以外は何も求めなかった。
いつか手離すときに、自分と同じさびしさを知って欲しくなかったのだろうと思う。俺の推測だ。けれど多分、限りなく近い。男は誰よりも優しさに満ちていた。
だから。だから、たった一人、この男の最後に寄り添ってくれる人間が出来たのなら。それが男の永く愛する女性だったのなら。
「『誰かたった一人、死んだって手離したくない人がいれば。こんなクソッタレな人生に絶望して、クソッタレな運命に逆らえなくても、そのたった一人がいれば。その人が俺の未来だ。その人が、俺の希望だ。』」
「え、」
「俺さ、スグルの最期の日に、スグルと居たんだよ。スグルの大好きなラムネ片手に、お前もうすぐ死ぬかも知れないのに何もかわらねぇな、って俺、笑ったりして。本当は死ぬほど辛かった。まだ行かないでくれ、って何度も何度も祈って。でもスグルが今まで通りに過ごして、何も知らないってフリしていくつもりなら、それに付き合うしかないって思ってた。なのに、結局俺、別れ際に言っちゃったんだよ。『いかないでくれ』って。」