美味しい酒を飲んで、美味しい料理を食べて。懐かしい話や、聞かなきゃ永遠に知らないような話を飽きもせずに続けた。

たくさん笑って、たくさん頭をウンウン捻って、時々俺が怒って男が宥めて。
一人で過ごさない夜は懐かしかった。男と過ごす時間が昔から、俺には宝物だった。らしくもなく、終わるな、と思った。

けれど、だって、いつも、そうはいかなかった。一頻り笑い合って、妙な沈黙が生まれる。空になったジョッキを人差し指でなぞって、男はやっと決心したように言った。

「相手、楓ちゃんなんだ。清水、楓。」

やっと、やっと言いやがったな、と今度は俺が笑ってやる。
「招待状の文字、一瞬誰か分かんなかったけど。この前の同窓会で俺、千鶴と受付やったからさ。」
「そっか。」と一言。続けてまた、「そっか。」

「家族は何て?」
「・・・泣いて喜んでくれたよ。子供が出来たんだ。」
「そうか。」と一言。続けて、「おめでたい話だな。」

「うん。」
「彼女、中学時代からお前のこと好きだったろう。知ってるよ。振られて大泣きしてちょっと有名人になって。それでもお前を諦めなかったもんなぁ。お前は男子校にまで行って逃げたのに。」