世間が嬉々として謳う華の金曜日。例に漏れずこの居酒屋にも多くの働く人間様が集い、空間は謎の祝福モードだった。

「取り敢えず生二つ。後は枝豆と鳥軟骨、塩ダレキャベツと、お勧めの串カツセットで。」
「かしこまりました。」
「あ、それとすみません。灰皿頂けますか。」
「はい。少々お待ちください。」
「すみません。お願いします。」

メニュー表を閉じた男が「相変わらずだね。」と笑う。特に食に拘りがあるわけではなく、この男との食事の席では男の好物が並ぶのが常だった。

「元気にしてたか。」
「その言葉はそのまま返すよ。随分と痩せた。ちゃんと食べてるの?」
「問題ない。体重は平均だし、健康診断でもお咎めは無かった。」

そういう問題じゃないんだけどなぁ、と呆れ顔の男こそ、以前より随分と痩せたものだ。
自分の事に無頓着、それは男も俺も一緒だった。

「それにしても立派な紅葉だね。また彼女にでも振られた?」
「やめてくれ、そんなんじゃない。どうせお前に連絡がいったんだろ。分かってるくせに、白々しいな。」

男が大袈裟に肩を竦める。この野郎、結婚の報告に来たと思ったら、そうじゃないらしかった。