「後悔、しないか。絶対に。俺が、」
「するわよ。」
凛とした声だった。何処かぼんやりとしていた思考に、バケツで水をかけられたようだった。端末の向こうで彼女の、大袈裟な溜息が漏れる。
「するに決まってんじゃん。アンタがもう直ぐ死ぬって分かってても、その日が来ちゃっても、中学生の頃からずっと、覚悟したって受け入れられた試しなんかないわよ。」
「それでも」と続く声に、震えが混じる。
「それでも、どんなクソッタレな未来が待ってても、アンタと、遙と過ごした時間に後になって後悔してケチつけるような、中途半端なもんじゃないの。心底惚れてんの。後悔なんて今更よ。アンタに出逢ってからずっと私、後悔ばっかりよ。愛してんだから後悔するでしょ。馬鹿か!」
・・・あぁ。うん、うん。そうだよなぁ。
こんなに誰かを愛してるんだから、誰かを愛する世界の美しさを知ってるんだから、未練たらたらのみっともなさ全開で。こんなクソッタレな人生、耐え切れる方が、ずっと惨めだ。
「話は終わりか。」
「・・・うん、」
「だったらはよ戻って来い。ボロアパートを何時迄も契約したままにすんな。何も無いだろうが。」
「・・・うん。」