男の姿を見送って、もう随分と長い間埃を被ったままの数字の羅列に目を通す。

思えば自分から彼女に電話をするのは初めてだった。着信拒否の可能性も否めないが、彼女は何だかんだで俺達には甘い。耳に押し当てた端末から呼び出し音が聞こえるのに、自然と息を吐き出していた。


一コール、ニコール、三コール。もう寝たか、とか、敢えて無視してるんじゃないか、とか。若干不安になっているうちに、ブツリと別の音が響いた。

「ただいま電話に出ることができません。ピーッという発信音に続けて、お名前とご用件をどうぞ。」
「・・・怒ってる?」
「怒ってるに決まってんだろ。ぶっ飛ばすぞ。」

なんて野蛮な留守番電話サービスだ。思わず吹き出して、すかさず「笑ってんじゃないわよ。」と鋭い声。

「透に会ったんだ。さっき。」
「知ってるわよ。私が連絡したの。」
「うん、そうだろうと思った。ありがとう。」
「ドウイタシマシテ。で、要件。」
「冷たいな、もっと優しくしてくれよ。」
「アンタにはこれ以上ないって程優しくしてんのよ。その優しさを裏切ったから頬に紅葉が映えてんの。それに営業時間外じゃアホ。」