「きっと、お前も千鶴も、スグルにとっては希望だった。未来だったんだと思うよ。別に、スグルみたいに生きろってわけじゃないんだ。でも、だけど、俺はな。俺は、お前がスグルの言ってた「たった一人」に出逢えたんだったら、これ以上嬉しいことはないと思ったよ。」
ズッ、と大きな音が響く。あぁ、お前。そんなに泣いたら目が溶けるぞ。
別に、本当にいいんだよ。スグルみたいに強くなる必要はないんだ。なんてったって、お前は弱虫の泣き虫、優しいさびしがりやだ。
みっともなく縋ったって、死ぬ直前も、死んだ後だって、何度も後悔したっていいよ。理不尽に耐え切れるような人間にはきっと、ならないほうが幸せだろう。
暫く、男はグズグズと泣いた。いっそ呆れる程泣いて、俺が一人追加で注文をした枝豆を横取りして咀嚼しては、またグズグズと泣いて。
「結婚式には来て。絶対だよ。後、千鶴には連絡しておいて。絶対だからね。」
別れ際、男は美形も台無しにパンパンに腫れた顔でそう言った。冷やして帰らなくていいのか、未来の嫁さんがドン引きするんじゃないか、とは言わず、黙って頷いた。
それから暫く、帰って行く男の背中を見送る。
多分、何か男の中で明確な変化が起こったわけではない。変わらず何度も悩むだろうし、さびしさに耐え切れず泣くだろうし。でもそれがいい、と思う。
こんなクソッタレな人生、こんなクソッタレな運命、絶望して、怒って、諦めて、泣きじゃくって。そういうみっともなさを愛している。