「あーーー!」



思いだした瞬間、頬に両手を当てて崩れ落ちた。

数秒後。


「沙弥、うるさいわよ? また大きな声出して……」


ガチャッと勢いよく開いたドアから、お母さんが顔を覗かせた。

だけどあたしは、固まったまま動けなくて。


「おかえりなさい。早く中に……」

「……なかった」

「え?」


零れ落ちた声が、玄関の前で虚しく響いた。

受け止めがたいけれど、これが紛れもない事実なのだ。


……ねぇ、どういうこと?


せっかくのオシャレを褒められることも。

待ち望んでた胸きゅんラブラブ展開も。


素敵なことなんて、なーんにも起きなかったんですけどーーっ!?