「ありがと、日野っち! お疲れ様」


車を飛び降りたあたしは、帰宅するなりすぐに自分の部屋に入った。


インタビューの仕事は速攻で終わらせた。

いつもよりいい子ちゃんにして、わがままは封印。

求められてるワードを言えば、それを上手く使ってくれるんだもん。


仕事終わり絶対に食べるアイスクリームも、今日はいらないって断った。

そんなことより。



早く、早く早く……!


分厚いメガネは机にバイバイし、真っ黒なサングラスを。

耳にかけたマスクは、ちゃんと顔が隠れる大きいやつ。

あとは、と手を伸ばして掴む紺のロングコート。

落ちたハンガーなら後回し。

てか、気にしない。

スッとコートの袖に腕を通したらもう完璧、さあしゅっぱ──。


──じゃない!

バカあたしってば大事な帽子を忘れてる。


よしっ。

と男物の黒色ニット帽を被り、今度こそ準備は万端。


トットットッ。

軽快なリズムを刻みながら、急いで階段を駆け降りた。