『……決めた。あたし、引退する』

『は?』


ポツリ、呟くようにそう言うと、日野っちは一瞬だけ目を丸くした。


『自由に学校も選べないくらいなら、その方がマシだもん』

『冗談でしょう……?』

『本気よ! これから社長に電話する』


カバンを掴み、急いでピンクのケータイを取り出す。

続けて画面をタップしようとした、その時。



『仕方ありませんね』



日野っちの低い声が、それを阻んだ。

見ると、彼は何やら戦に挑む前の武士みたいな表情をしている。


『気は進みませんが……今回は、特別に許しましょう』

『わぁっ……!』

『ただし』


へ?


『いくつか、条件があります』

『条件……?』


『すべてちゃんと、守れますね?』



あたしはゴクリ、喉を鳴らしながら息を呑み込んだ──。