街中に五万といる恋人たち。


見つめ合って。

笑い合って。

その愛を確かめるように、寄り添い歩いている。


“恋人同士なら、それは普通のことでしょ”

多くの人は、そう言うかもしれない。

だけど。


──『別れろ』


あたしは、そんな普通のことすらできない。


好きな人と外で堂々と腕を組むのも、

ふたりで遊園地に遊びに行くことも。

ただ、普通の恋をすることが、許されてないんだ。


アイドルだから。

そう。

それは、ちゃんとわかってる。

わかってるけど。


こんなにつらい思いをしなければならないなら、もういっそ──。



「……や、沙弥!」

「へっ!?」


突如響いた大きな声に、あたしは精神世界から呼び覚まされた。

はっとクリアになる視界。

そこには、心配そうに手をかざすまなみんの顔があって。